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首都直下南海トラフ地震に備えよ<鎌田浩毅>

■SB新書241221

 まもなく起きる首都直下型と南海トラフの大地震。富士山の噴火の可能性も高まっている。大災害にどうそなえ、どううけとめればよいのだろうか。
 能登半島地震はM7.6で、この地域では記録がある1885年以降で最大規模だった。数年前から群発地震がつづき、21年に震度5弱、22年に震度6弱、23年に6強を観測していた。珠洲市周辺の地下には高温高圧の「流体」があり、地下の断層面に浸入して地震をおこしてきた。
 今回、輪島市西部で3~4メートル、珠洲市北部で1メートル隆起し、熊本地震(1~2メートル)、08年の岩手・宮城内陸地震(1.5メートル)とくらべても直下型としてはきわめて大きかった。
 M7.0という地震は、直下で発生すると「震度6強」で、単独で起きた場合は「○○大震災」と名前がつけられるほど。そんな大規模な余震も、2011年のM9.0という本震の大きさにのみこまれた。
 本震のマグニチュードから1引いた規模の余震がおきる。つまり、東日本大震災はM9.0だから、今後最大M8クラスの余震がくるという。
 東日本大震災は、「寝た子を起こして」しまった。プレートにたまったエネルギーは、震源域を広げながら今後も解放される可能性が高い。東日本の震源の南側にあたる房総半島沖での地震がとくに心配されている。
 マグニチュードは数字が1つ大きくなると、地下から放出されるエネルギーは32倍(2の5乗)ほどになる。数字が0.2大きくなると、エネルギーは2倍になる。東日本の放出エネルギーは、1923年の関東大震災の約50倍、95年の阪神・淡路大震災の約1400倍だった。
 東日本大震災が誘発する地震でもっともおそれられているのが、首都直下地震だ。政府の地震調査委員会は2023年、今後30年間の首都直下地震の発生確率を70%程度と発表した。なかでも「都心南部直下地震」では、震度6強以上が23区の6割に達し、死者最大6148人、避難者299万人にのぼると見積もられた。
 南海トラフによる西日本大震災も間近に迫っている。30年以内に発生する確率は、M8.0の東海地震が88%、M8.1の東南海地震が70%、M8.4の南海地震が60%。その数値は毎年少しずつ上昇している。これらの経済被害は東日本の10倍超の220兆円超と試算されている。
 南海トラフの地震は90~150年おきに起き、3回に1回は超弩級。今回はその番にあたっている。東海・東南海・南海の3つが同時発生する「連動型地震」というシナリオで、M9.1と予測されている。3つの地震の順番は、名古屋沖の東南海→静岡沖の東海→四国沖の南海で、統計上冬に発生する確率が高い。
 1回の地震で大きく隆起するほど次の地震までの時間が長くなる。巨大地震による地盤沈下からの「リバウンド隆起」という。1707年のリバウンド隆起は1.8メートル、1946年は1.15メートルだった。そこから次の地震の発生時期を予測すると2035±5年となるという。

 土地の性質によっても被害は大きく変化する。
 阪神大震災のとき、六甲山地からの河川の自然堤防にあたる場所の家屋はつぶれなかった。川が運んできた粒度の粗い礫などが地下を構成していたからだ。一方、自然堤防から離れた地域は、砂や泥などの軟らかい堆積物におおわれていたから多くの建物が倒壊した。また、土地造成で削られた宅地の家は残り、盛り土をされた土地の家はひどく崩れた。
 間近に迫る地震、火山の大噴火……と考えると気が重くなるが、地震や火山は自然の恵みももたらしてくれている。そして、自然とともにくらした百姓のブリコラージュな知恵で災害に対処するべきだと説く。
「直下型地震は数千年に1回だから、来た時に数十秒の揺れをなんとかしのげばよいのです。「長尺の目」を持ちつつ日本列島で落ち着いて暮らすことも、とても大切なことではないでしょうか」
 「縄文人にとって、地震は災害じゃなかったのでは……」と能登半島の真脇遺跡縄文館の館長さんが言っていたが、地震を災害にしてしまったのは近現代の文明だったのかもしれない。

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