映画「チロンヌプカムイ イオマンテ」はほろ苦いタイムマシーン
「チロンヌプカムイ イオマンテ」というキタキツネの霊送りの祭礼が1986年、屈斜路湖を望む美幌峠で75年ぶりに催された。
アイヌの伝統的な考え方では、動物は自分の肉や毛皮をみやげにして人間の国へやってくる。
我が子のようにかわいがって育てたキタキツネを神の国へ送る行事だ。つまり家族の一員だったキタキツネを「殺す」ということだ。
祭司をつかさどるのは日川善次郎エカシ(75歳)。アイヌ神事の伝承者だ。
彼が家族同然にらしてきたキタキツネのツネキチを神の国にかえすことになった。いくつもの祈りをささげ、歌や踊りで喜ばせ、さまざまなみやげ(お供え)をささげる。最後、ふたつの棒で首を圧迫することで殺し、毛皮をはぎ、頭骨をとりだしてかざる。
その過程を映画で説明するのは、生贄となるキタキツネのツネキチ自身のかたりだ。
家族同然だった動物を殺してしまう。それが残酷なのか、豊かさなのか。
アイヌの世界観をよくあらわす行事なのだろう。
屈斜路湖や阿寒湖のみやげ店や観光地の風景がぼくの記憶のままであることに驚いた。よく考えれば、最後に屈斜路湖を訪れたのは前年の1985年だったのだ。この神事とほぼおなじときに美幌峠から屈斜路湖をながめている。だからこのドキュメンタリーの映像が現在進行形のように思えてしまうのか。
85年の夏には日航機墜落事故が起きた。網走駅でニュースを知ってはげしく動揺したがヒッチハイクをつづけ、屈斜路湖も訪ねたのだった。
二風谷でチセ(伝統家屋)の新築をいわう祈りのため日川エカシが呼ばれる。その場には、萱野茂さんら見たことのある人が何人もいる。
グアテマラ先住民族女性で、ノーベル平和賞を受賞したリゴベルタ・メンチュさんにくっついて1993年に訪ねた二風谷のチセはたぶんおなじ建物だった。
主人公の日川エカシは撮影から4年後の1990年に79歳で亡くなった。その後国会議員もつとめた萱野さんも2006年に亡くなっている。
アイヌの世界観にどっぷりひたるとともに、タイムマシーンで40年前にもどったようで、ほろ苦い映画だった。