映画 大地よ<金大偉監督>
宇梶静江の語りと、雲や海、山の幻想的な映像で、彼女の半生とアイヌの世界観を描くドキュメンタリー。
静江は北海道・浦河町のアイヌの家に生まれた。
アイヌであることをかくして東京にでたが、あるときから、アイヌの文化や人権の回復をめざす運動にかかわり、詩作をはじめる。63歳からアイヌの刺繍の技術を生かした「布絵」にとりくんできた。
木訥として彼女の語りは、単調ではあるけれど、時々ハッとする言葉がある。
詩はあるとき突然頭のなかにふってくる。それを忘れないうちにメモするという。詩作は創作ではなく「聴く」能力なのだ。
大地も太陽も風も水も神(カムイ)だ。それらの自然を敬うことが自分にとっての宗教である。
孤独と寂しさをつきつめ、夜ふとんで目を閉じると、たくさんの菩薩にかこまれ支えられているのをかんじるという。その支えこそが自然=神なのだろう。
淡々とした語りと、海や空、山の映像とアイヌの音楽で、主人公が体得しているアイヌの世界観と宗教観をえがきだす。
主人公の息子で俳優の宇梶剛士のナレーションが、力強い声で心地よい。だがその内容というか、言葉づかいはちょっと気になった。
たとえば「自然と人間との共生」といった表現。主人公は、人間と自然の「共生」を求めているのではなく、神である自然に「生かされている」感覚と自然への感謝を表現しているのではないのか?
美しい映像と、主人公のコトバのきらめきがすばらしいだけに、わずかな無神経な言葉遣いが残念だった。