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学校に保健室があるように、街に大人が行ける保健室があってもいい。「暮らしの保健室とは?」

先日、日本プライマリ・ケア学会主催のイベントに参加してきました。

講師は、看護師・暮らしの保健室室長・マギーズ東京センター長 他、暮らしとケアの交差点においてパイオニアとして活躍されている秋山正子さん。
会場は新宿戸山団地にある「暮らしの保健室」。現在、暮らしの保健室は日本全国に約50か所ありますが、そのルーツとなったのはこちらの戸山団地なのです。レジェンド秋山先生(職場でセンター長がそう呼んでいる)が創った、暮らしの保健室"本家"での開催。ワクワクな予感が止まらない。ということで行ってきました!

暮らしの保健室は都営団地の1階商店街に開設されています。「保健室」と聞くと、事務所のような造りの場所があるのかな…?とイメージして探していたのですが…そんなところ見つからない!え、どこ?と思ってたら一緒にいた知人(戸山ハイツ面白い!住みたい!と興奮気味で建築の人だなと実感)が見つけてくれました。木を基調としていて温かみのある空間。保健室が、商店街にすっかり馴染んでいました


暮らしの保健室とは=地域のよろず相談所

暮らしの保健室は、誰でも予約なしに無料で、医療や健康、介護、暮らしの相談ができます。戸山ハイツの高齢化率は56.2%(H31年4月時点。新宿全体の高齢化率は約20%なので戸山団地の高齢化率は3倍近く)、独居が4割を超えています。一人暮らし高齢者の不安は大きく、悩みを抱える人も多い。

体調が優れない気がする時に病院に行くべきか、どこの病院に行けばいいか、という健康や在宅医療の悩みを抱える人の多さと、地域で最期まで過ごしたいというニーズに気づき、学校に保健室があるように暮らしの中で大人が行ける保健室があってもいいんじゃないかと生まれたアイディアです。

病院ではなくまちにある健康相談所であり、なるべく敷居が低くなるように工夫されています。地域の人々が気軽に立ち寄り、話し合い、医療や福祉に関する心配を相談することができる場です。

相談の中身は医療相談が7割近くだそう。興味深かったのは、「よく話を聞き、少しの助言で情報提供」これで4分の3が解決しているということです。非常に複雑な例は意外に少なく、必要時には地域包括支援センターや医療機関などを紹介し、多くの所と連携をとっています。

暮らしの保健室は、以下の6つとしての働きを柱に据えています。

①生活や健康に関する相談窓口
②在宅医療や病気予防の学びの場
③医療や介護、福祉の連携の場
④地域ボランティアの育成の場
⑤世代を超えてつながる交流の場
⑥なじみの顔と過ごす安心の場

秋山正子 (2019).「暮らしの保健室」のはじめかた コミュニティケア,Vol.21 No.7 269号,017ペ―ジ.

具体的には、住民向けに医療職が熱中症脱水予防講座のミニレクチャーを行ったり、街の専門職がヨガや整体、メイク、ストレッチなどのアクティビティを開催しています。

2017年にグッドデザイン特別賞(地域づくり)を受賞し、暮らしの保健室についてお話されている動画がこちらです。

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戸山団地で暮らしの保健室をはじめた背景

秋山先生は新宿で訪問看護師として働いている際に「病院は廃用症候群と認知症を進行させている」「なぜこんなに重症になってから訪問看護に繋がってくるの?もっと予防的にできることがあるのではないか」と感じていたそう。

実際に病院や行政の多くの相談窓口は、予約が必要で、相談内容を明確にしていかなければならず、なかなか相談しにくいイメージがありました。

地域には、気軽に、体調や介護、その他暮らしの中で分からないこと、気になることを相談できる相手がおらず、状態が悪化してからの対応となりがちでした。 

もっと予防的な対応ができるように、病院より、敷居の低い、人々が気軽に来れる、場を創りたい。そう思っていたときに戸山団地の本屋のオーナーから「あなた達のように社会貢献活動をしている人たちに部屋を安く貸したい」と声がかかり、戸山ハイツの一室を借りたそう。立ち寄りやすさを第一に意識し、人々が訪ねてきた時に、心地よい、大事にされている、居場所だと思える、安心して集える場を建築家と細部までこだわり作り上げました。 ハード面は、オープンキッチンと大きなセンターテーブルがあり、窓からは街路樹の緑が見えるという、家庭的でくつろげる雰囲気に。 気軽に入れる居心地のよい場所に、保健師や看護師、薬剤師、管理栄養士、カウンセラーなどの専門職がおり、無料で相談ができるところにこだわりました。

お茶を飲んだりボランティアと世間話をしたり、アクティビティに参加するためだけに立ち寄ってもよく、その雑談や交流の中で、必要であれば専門職に相談できるような敷居の低さを大切にされています。

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暮らしの保健室と私たちのこれから

これから、全国でもっと暮らしの保健室を広めていってほしいと考えているそう。その街のニーズに合った暮らしの保健室を多種多様な形で「つながり・ささえる・つくりだす」とお言葉をいただきました。

また、秋山先生のお話で「保健師らしい保健師」という言葉が心に残っています。暮らしの保健室のはじめかたの編集後記を読んで、地域によく出て住民の健康を守る保健師のことではないかと咀嚼しています。

私は今、地域包括支援センターという場所で、65歳以上の高齢者とその家族の総合相談窓口で保健師をしています。その中で思うのは、自分からSOSを出せない人や自分の体や生活に興味がない人、行政がニガテな人に、どうやってアプローチをしていくかということです。

健康に興味がない人に「もっと体のことを」と言っても、興味がないので届きませんし、それは一方通行の「健康の押し売り」になってしまいます。また、医療機関や保健指導で出会うときには、すでに「医療職と患者」という関係性が生まれており、なんだか対等ではない気がするんです。

例えば、認知症を介護されているご家族がこんな思いを抱いて相談に来れないこともあります。

見えないハードルがある。これは、地域包括支援センターに関わらず、保健センターや保健所も同様だと観察されます。

だから、もう少し楽しくてポジティブな切り口で、フラットな関係性で、出会いたい。街で生活していて、銭湯やスナックでたまたま出会って仲良くなった人に最近の話をしてたら、その人がどうやら医療職だった。そんなシチュエーションがいい。

医療機関や行政で出会うのも悪いことではないですし、むしろそこで待っていて出会える人たちは「SOSを出せる力がある、困りごとに対して適切な行動が取れる」という能力を持っているという素晴らしいことです。

だけど、そうじゃない人もいる。相談に来れても、なんだか緊張してしまってうまく話せないこともあるかもしれません。

だから、そんな人たちにフラットな関係性で出会うために、もっと街の暮らしの動線上にケアを置いていきたいなと思うのです。

病院や行政というのはちょっとハードルが高いけれど、あそこなら気軽に行ける。1回目行ってみたときに安心できる空間だと分かったから、2回目行ってみたときは少し相談してみよう。そんなコミュニケーションがあると、パパママ銭湯を行ってみて感じました。

また、そこに集まった人たち同士での交流が生まれてて非常に嬉しく思いました。都市では地域コミュニティが希薄化が進み、子育てをするママや介護者の孤立といった課題があります。

パパママ銭湯をはじめとして、これから銭湯に通う人と医療者や保育師等、多様な専門家が街の多世代とごちゃ混ぜに出会うことで「つどい、まなび、むすばれる」居場所となったらいいなと思います。

9/26、銭湯って多世代が集まる街の奇跡の交差点だけど、何しよっか!を考える会やります。社会的処方、ソーシャルキャピタル、地域コミュニティなどにご興味ある保健医療福祉職の方がいらっしゃればぜひ!TwitterにDMください〜。



創作意欲になります。!