
【新刊紹介】2025年 3-4月号の雑誌77冊を眺めながら今月の流行りをゆるく抑える
雑誌はかつて流行を映すメディアだった。しかし、情報が即座に拡散されるネットの時代において、その役割は変化しつつある。それでも、雑誌には「時間をかけて編まれる視点」と「深く掘り下げられた考察」があり、単なるトレンドの記録以上の価値を持つ。だからこそ、あえて雑誌を追いかけることで、今の社会を読み解く手がかりを探したい。本稿では、2025年2月中旬から3月末にかけて発売される雑誌の中から、個人的に関心の高い特集を集め、その傾向を探る。
思想・心理学
2025年3月の思想・心理学系雑誌は、社会の危機と変容をテーマにした特集が多い。現代中国の思想や戦後80年の日本社会の症状、アメリカのリスクなど、歴史と政治の変遷を問う内容が目立つ。また、学校依存社会や教育の敗北、性暴力の問題など、個人と社会の関係を深く掘り下げる論考も多い。トランプ再登場を巡る評価や、環境問題と自己認識の関係を探る特集もあり、政治・教育・心理の交差点に焦点を当てる傾向が強い。
思想 最新号:2025年3月号:現代中国の思想
図書 2025年3月号:〈環境を読む、私たちを知る〉
世界 2025年4月号:学校依存社会 /もうひとつの韓国
科学 2025年3月号:マルチメッセンジャー天文学の時代
表現者クライテリオン2025年3月号:トランプは”危機”か”好機”か?
臨床心理学 第25巻第2号 性暴力
潮 2025年4月号:アメリカのリアル 世界のリスク
情況 2025年 02 月号:戦後80年の〈症状〉
ユリイカ2025年4月号:デヴィッド・リンチ
現代思想2025年4月号:教育は敗北したのか
2025年4月号:夫婦別姓 不要論
第三文明 2025年4月号:日本の持続可能性
NHK 100分de名著2025年3月号:ヘーゲル「精神現象学」
Wedge2025年3月号:食料危機の正体 日本の農業はもっと強くできる
創2025年4月号:広告界の徹底研究/伊藤詩織さん映画紛糾
月刊『地平』4月号:軍事化される西日本/脱プラスチック社会へ
中央公論 2025年3月号:官僚たちの正念場
歴史街道 2025年3月号:室町幕府と応仁の乱/古代日本を動かした「物部」と「蘇我」の実像
エンタメ・音楽
2025年3月・4月のエンタメ・音楽系雑誌は、過去のレジェンドの再評価、新たな表現の模索、ポップカルチャーの進化という三つの傾向が際立つ。サザンオールスターズやラヴェル、デヴィッド・リンチの特集では、巨匠の影響力を現代的に再解釈する動きが見られる。一方、XGの特集や村田沙耶香の作品分析では、新時代の表現と価値観の変化を探る。K-カルチャーの台頭や、ラジオ・写真・映画など多様なメディアの進化にも注目が集まっている。
キネマ旬報 2025年4月号 No.1960:映画の坂本裕二
ダ・ヴィンチ 2025年4月号:正常を問う実験者
村田沙耶香と世界/いま、出会いたい『ドラえもん』
GALAC 2025年4月号:ラジオ100年のレガシー
コマーシャル・フォト2025年3月号:3月号は韓国で活躍する注目のフォトグラファー!
GQ JAPAN 2025年4月号:TOKYO NEW IVY
BRUTUS 2025年 3月15日号:全国民に贈るサザンオールスターズ特集
SWITCH Vol.43 No.3:XG X-POPをつくった100曲
CINEMA SQUARE vol.152
サラサーテ2025年4月号:ラヴェル生誕150年
音楽と人4月号:SixTONES
音楽の友 2025年4月号:ライジング・スターたちを追う!/全国ホール&劇場ガイド2025/春色の音楽祭2025
文芸
2025年3月・4月の文芸系雑誌は、孤独と継承、表現の多様化が主軸となる。群像の「孤独の時間」では個の内面を深く掘り下げ、短歌研究や歌壇では永井陽子の世界や歌集のあとがきを通じて詩や短歌の伝統と革新を探る。また、詩や俳句における方言の影響を考察する動きもあり、個人的な言葉と社会の関係を問う視点が際立つ。直木賞発表や文芸レジデンシーの特集もあり、新たな才能の発掘や文学の国際的広がりにも注目が集まっている。
ちくま2025年 3月号
現代詩手帖3月号:海外詩の前線 文学レジデンシーを通じて
短歌 2025年3月号:高校生短歌はいま
短歌研究2025年4月号:ついに読む、「永井陽子の世界」
歌壇 次号:2025年3月号:歌集のあとがき
俳句 2025年3月号:一物の強さ
俳句界 2025年3月号:句に刻まれた師系を語る/心を揺さぶられた俳句
オール読物 2025年3月号:第172回直木賞発表
ホトトギス2025年3月号
俳壇 2025年3月号:俳句と方言の関係
文藝春秋2025年4月号:
本の雑誌 2025年3月号:私はこれで書きました。
群像 2025年3月号:孤独の時間。
文學界 2025年4月号:
すばる 2025年4月号:
生活
2025年3月の生活系雑誌は、文化とライフスタイルの融合が特徴的だ。台湾旅行、喫茶文化、鮨の最前線など、単なる消費ではなく体験を通じた文化理解が重視されている。『クロワッサン』の「人生を充たす本」は、読書が生き方に与える影響を再考し、『POPEYE』は服の着こなしを細部から掘り下げる。食、旅、読書、ファッションが単なる流行ではなく、自己のあり方や社会との関係を映し出すものとして扱われ、個々の選択がより深い意味を持つ時代の到来を示唆している。
&Premium2025年4月号:Trip to Taiwan 台湾でしたいこと。
クロワッサン 2025年3月号:人生を充たす本。
『東京カレンダー』2025年4月号:鮨最前線。
おとなの週末:2025年3月号:喫茶店
dancyu 2025年春号:日本一の肉レシピ
料理王国2025年3月号:食の未来を拓く12人
POPEYE2025年3月号:服と着こなしの細かい話
家電批評2025年4月号:得する ビジネス道具格付け
建築・芸術
2025年3月の建築・芸術系雑誌は、テクノロジーと哲学、都市の再構築、歴史の再評価が主軸となる。a+uの「聖なる空間の再解釈」では生成AIと建築の融合を考察し、新建築の「リノベーションと都市の代謝」は都市再生の視点を提示する。一方、Penの「大阪再発見」や民藝の「民藝運動と縄文」では、地域文化や伝統の再解釈に注目。美術誌では顔をテーマにした特集や、解答のない問いを探る議論が見られ、表現の根源に迫る動きが強い。
a+u 建築と都市2025年3月号:聖なる空間の再解釈──建築における生成AI
MUSEUM 2025年2月号
日経デザイン2025年3月号:地域×クリエイティブ
月刊美術 2025年3月号:2025年前半の主要美術館展
美術の窓 No.498:顔は語る
CGWORLD 320:海外進出ガイド 2025
新建築2025年3月号:リノベーションと都市の代謝
月刊ギャラリー2025年3月号:解答のない問い、そしてあるいは...
Pen2025年4月号 :大阪再発見
『民藝』3月号(867号)「特集 民藝運動と縄文」
ビジネス
2025年3月・4月のビジネス系雑誌は、AI活用の加速、資本主義の再考、新たなマーケティング戦略が主軸となる。月刊事業構想はAIを活かした新規事業に焦点を当て、一橋ビジネスレビューは資本主義のあり方を問い直す。販促会議では値引きに頼らない購買促進の仕組みを特集し、プレジデントは最速の英語学習法を提案。デジタルマーケティングや小規模企業の成長戦略にも注目が集まり、テクノロジーと消費行動の変化を前提としたビジネスモデルの再構築が求められている。
宣伝会議 2025年4月号:注目40社のデジマ責任者に聞く、2025年の戦略と課題
プレジデント2025年3/21号:「英語」最速最短の勉強法
月刊事業構想 2025年4月号:増大する計算能力と高性能モデルがもたらす未来 新規事業にAIを生かす
月刊販促会議 2025年4月号 No.324:買い物の楽しさを最大化する店舗づくり/値引き以外で「買い続けたくなる仕組み」をつくる
月刊リベラルタイム (2025年04月号):「6人に1人」が相対的貧困の日本
DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー2025年4月号:
Forbes JAPAN 2025年4月号:日本が誇る小さな大企業
月刊ブレーン2025年4月号:いま人を呼び込む空間デザイン コンセプトのつくり方
一橋ビジネスレビュー:資本主義の再考
医学・看護
2025年3月の医学・看護系雑誌は、精神疾患と認知症の新たな理解、医療制度の評価が主軸となる。精神科治療学は認知症診療の最新知見を特集し、こころの科学は統合失調症の未来を探る。精神看護では施行20年を迎えた医療観察法を振り返り、臨床精神医学は幻覚や知覚障害の病態と治療を再考する。高齢化社会の進行と精神医療の課題が改めて問われ、診療のアップデートと支援体制の見直しが求められる流れが強まっている。
精神科治療学2025年3月号:認知症診療をアップデートする
精神看護 2025年 03月号:いまどうなっているの? 医療観察法
―施行から20年を迎えて
こころの科学 2025年3月号:みんなで考えた統合失調症の未来
臨床精神医学第54巻第3号:精神疾患の知覚障害/幻覚の臨床像−病態と治療を再考する
教育
2025年3月の教育系雑誌は、環境問題と未来世代の教育、リスキリング、学習の新たなデザインが主軸となる。月刊社会教育は持続可能な社会のための教育を探り、先端教育は雇用の変化に対応するリスキリングや探究学習の実践を特集。私塾界は学習塾業界の最新動向を分析し、企業塾の経営戦略に注目する。教育が単なる知識の習得に留まらず、社会変化に適応する力を養うものへと転換している流れが強まり、未来に向けた学びの在り方が問われている。
月刊社会教育 2025年3月:特集 環境と未来世代のために
事業構想別冊月刊先端教育 2025年 04月 別冊・臨時増刊:流動化する雇用とリスキリング/探究学習のデザインと実践
月刊私塾界2025年3月号:株式公開企業塾2025年2・3月期 第3四半期決算を読む/『学習塾白書2024』を読む
さいごに
2025年3月の知的潮流—再解釈の時代を超えて
三月の風が、ビルの隙間を縫うように吹き抜ける。季節の変わり目を感じながら、ふと足を止める。街のざわめきは相変わらずだが、どこか遠くに響いているように思える。人々の足取りは忙しく、それでも私はその流れの中で、一歩引いて世界を眺めている。この静かな距離感が、まるで社会の変化を俯瞰するような感覚をもたらす。
2025年3月の雑誌特集を通じて見えてきたのは、「既存の枠組みが揺らぎ、新しい視点が求められている」ということだ。思想・心理学の分野では、「教育の敗北」や「学校依存社会」が議論され、学びとは何か、知識とはどのように形成されるのかが問われた。知識はもはや固定されたものではなく、環境との相互作用の中で編み直されるものへと変わりつつある。また、トランプ大統領による世界の変化にも関心が向いている。これから春を迎えると共に新しい動向に目を向けられている。
エンタメ・音楽や文芸の世界では、サザンオールスターズ、ラヴェル、デヴィッド・リンチ、永井陽子といった過去の巨匠たちが再評価されている。ただし、それは単純なノスタルジーではない。彼らの表現が今の時代においてどのような意味を持ち得るのかを問い直す試みだ。歴史や文化は過去の遺産ではなく、その時々の視点によって新たに読み替えられ、変容する。
建築・芸術の分野でも、AIが空間を「設計する」時代になり、建築とは何か、都市とはどのように変化すべきかが問われている。都市空間は固定されたものではなく、歴史の集積でありながらも絶え間なく変化するもの。もし、AIが最適化された都市を作れるとしたら、私たちの「暮らし」とは何に依拠すべきなのか。
ビジネスや医学・看護の分野でも、AIやデータ経済の進展が、人間の価値観や社会のあり方を根本から揺さぶっている。資本主義のあり方が問われる中で、効率化だけではない「価値」の意味が見直され、精神疾患や認知症の診療においても「正常」と「異常」の境界が曖昧になりつつある。医学は単に病を治すものではなく、社会がどのように個人を位置づけるかの指標にもなっている。
こうした変化の中で、私たちは何を「知る」のか。
春と冬が交差する季節、風が頬を撫でる。ふと目を向けると、道端の広告が陽の光を受けて白く光り、人々の影が交差する。通りすぎる誰かの言葉が、一瞬だけ耳に残るが、すぐに消えていく。世界はこうして絶え間なく動き、私たちはその中で知ることを繰り返している。
かつて「知る」とは本を開けばそこに答えがあることだった。しかし、今はどうか。AIが最適解を瞬時に提示する時代、それでも人は迷い、考え、世界と関わり続ける。
たとえば、桜の開花予想。データが示す日付と、街を歩いてふと目にする薄紅の色。その差異をどう捉えるか。情報を知ることと、風の匂いや光の揺らぎを身体で感じることは、まるで別の体験だ。
知るとは、データの蓄積ではなく、変わりゆく世界の中に身を置きながら問い続けることなのかもしれない。足元の影が、ふっと長くなった。もう夕方が近い。見上げれば、ビルの窓に映る光が少しずつ色を変え始めている。こうして世界は静かに形を変えながら、それでも確かに、私たちの目の前に在り続ける。
知るとは、この変化を見つめながら、
新たな問いを立て続けることなのだろう。