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エッセイ㉒「ポッポ隊」

もう鳩が我が家の庭に巣を作ることはなくなりました。
ポッポ隊もすでに老齢なので、すっかり隠居生活に入っています。

唯一現役の新しい隊員として猫がいますが、彼はこの夏、2匹のクロハネトンボを仕留めました。
目を離した隙です。

「あれは神様の使いと言われているんだよ」と聞いてから、猫にリードをつけて庭を散策させる時には気をつけていたのに。

それこそ「神の使い」というなら、怒らずに許してくれるかなあ・・・・・・。


それにしても、家の庭では形は変われどいつでも追ったり追われたりの騒動が絶えません。


 実家の梅の木に、鳩が巣を作ることがある。
 これまでに二回ほどそれを見つけただろうか。だいたい見つけるのは母なのだけれど。一度巣を作ると毎年同じ場所にやってくるのが鳩の習性らしい。
 母は鳩が苦手だ。あの歩く時の首の振り方や、目の感じが気持ち悪いという。
 我が家では平和の象徴たる鳩だけでなく、朝の庭にさながら密林のようにあちらこちらから色々な鳥の声が聞える。
 けれど実際に巣を作るのはよりによって鳩で、そして見つけるのもよりによって母なのである。
 
 最初に鳩の巣に気がついたときは、すでに雛が孵っていた。だから、何もできずただただその雛が巣立っていくのを見守るばかりだった。
 二度目に巣を見つけた時は、卵が入っていた。丸い、青い卵だったという。というのも、母がその場でえいやと割ってしまったからである。
 家の他の人たちはひどいことをしたもんだ、と母を悪者にした。
 しかし自分が苦手な生き物の繁殖を家でさせたくないというのも、考えてみればわかる。もしそれが虫や蛇だったら、と父や兄に言えば、勢いよく首を縦に振るだろう。

 最近では、我が家で鳩の巣は見つからない。
 母が「ポッポ隊」と呼ぶ編成が家で組まれているからである。家の中で飼っている二匹の犬たちのことだ。
 庭で鳩の鳴き声がすると、母がポッポ隊を居間の窓から外に解き放つ。
「いけっ、ポッポ隊」
 犬たちは庭を駆け回り、吠え盛る。こうして巣を作る前に、鳩を追い払っている。

 その一幕を見ることが、わたしは好きだ。
 犬たちも心得たもので、たとえ母が家に留守の時でも、鳩の声を聞くと吠え始める。
 だから、わたしも庭への窓を開けようか迷う。
 しかし結局、わたしが見たいのは母と犬たちのひと場面だしなあと、あえて真似をしない。
 今では母の嫌いな鳩も、わたしにとってはちょっとうれしい来客だったりする。

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