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リポソームボツリヌストキシンA治療の効果を検証 間質性膀胱炎等の膀胱機能障害に対する有効性

「A型ボツリヌス神経毒素(以下、ボツリヌストキシンA)」の膀胱内注射は間質性膀胱炎・膀胱痛症候群の治療法の一つとして知られていますが、注射をくり返すことが患者さんの負担となっています。最近の研究では、リポソームという脂質のカプセルをボツリヌストキシンAの送達媒体とすることで、排尿筋に影響を与えることなく、痛みや炎症が改善することわかってきました。低エネルギー衝撃波との組み合わせの有用性についても、研究が進められています。

ボツリヌストキシンAを注射の負担なく送達

学術顧問の望月です。前回、前々回に続いて、今回もボツリヌストキシンAの膀胱内注射に関連する研究情報をご紹介します。ピックアップしたのは、『Toxins』に2022年に掲載された「Liposome-Encapsulated Botulinum Toxin A in Treatment of Functional Bladder Disordersction in women with refractory Interstitial Cystitis/Painful Bladder Syndrome: A pilot study」という論文です。

ボツリヌストキシンAの膀胱内注射は、過活動膀胱、間質性膀胱炎・膀胱痛症候群といった膀胱機能障害に対する効果が期待されている治療法です。膀胱の過活動や痛みの緩和などの効果が報告されている一方、ボツリヌストキシンA注射後の有害事象のリスクと長期に渡る反復注射の必要性が、患者さんの負担になることがこの治療法の広範な適用を妨げています。

ご紹介する論文では、リポソームを用いてボツリヌストキシンAを封入したリポソームボツリヌストキシンAの過活動膀胱や間質性膀胱炎などの膀胱機能障害に対する治療効果、低エネルギー衝撃波との組み合わせの有用性が整理されています。

リポソームは、細胞膜や生体膜を構成している脂質のカプセルです。尿路上皮の細胞膜を横切っていく性質があり、ボツリヌストキシンAの送達媒体としてリポソームを使用することで、末梢から中枢に向けて神経の興奮を伝える求心性神経に作用して、排尿筋に直接影響を与えることなく、痛みや炎症を軽減する可能性があるとされています。

リポソームには、単独でも組織の修復をする働きがあります。過活動膀胱を誘発したラットを対象とした実験では、リポソームの膀胱内注入が頻尿の改善に有効であること、膀胱の収縮間隔を緩やかにすることなどが報告されています。これらの結果は、リポソームが尿路上皮のバリア機能を強化して刺激物の浸透に対する抵抗力が上がったことを示しています。

リポソームボツリヌストキシンAの膀胱機能障害に対する効果

近年、リポソームを媒体としてボツリヌストキシンAを膀胱に届ける研究も進められています。過活動膀胱のラットを対象とした実験では、リポソームボツリヌストキシンAが膀胱の過活動を抑制することが確認されました。組織を検証したところ、炎症細胞の蓄積やむくみが改善していることがわかったのです。

そのほか、痛みに関連するメディエーターを調節する働きがあることも明らかになっています。また、2施設で実施された、過活動膀胱患者における二重盲検無作為対照試験において、尿閉や薬物関連の有害事象が報告されることなく、排尿回数および尿意切迫感減少などのリポソームボツリヌストキシンAによる治療効果が報告されています。

間質性膀胱炎・膀胱痛症候群に対する研究も見ていきましょう。海外では、96人の患者さんを対象とする試験が実施されました。96人をリポソームボツリヌストキシンA、ボツリヌストキシンA入りの生理食塩水、生理食塩水を投与する32人ずつの3つのグループに分けて、それぞれの症状の変化を比較するという内容です。

4週後、リポソームボツリヌストキシンAを投与したグループは、間質性膀胱炎問題指数(ICPI) ・間質性膀胱炎症状指数(ICSI)のほか、痛みが改善していることがわかりました。グループ間で比較すると有意差は認められなかったものの、一定の効果が確認されています。

この試験を行った研究者によると、プラセボ効果が対象群の結果に影響を与えている可能性があることが示唆されたとのことです。今後リポソームボツリヌストキシンAの効果を明確にするために、ボツリヌストキシンAの最適な濃度を探っていく必要があると指摘されています。

低エネルギー衝撃波との組み合わせにも期待

最近の研究では、膀胱に低エネルギー衝撃波を加えると、膀胱の尿路上皮をリポソームボツリヌストキシンAが透過しやすくなることも明らかになっています。患部に到達するリポソームボツリヌストキシンAが増えることで、より高い治療結果が期待されるというわけです。そのほか、膀胱壁の炎症を伴わずに尿路上皮機能不全のみが見られる患者さんには、リポソームボツリヌストキシンAはよく効くこともわかってきています。これらの研究成果は、治療の最適化の一歩となるかもしれません。

リポソームボツリヌストキシンAの膀胱内投与は、従来の外科的治療より簡単で侵襲性の低い治療法です。臨床効果の報告はまだ限定的といえますが、継続的な患部への注射を必要とするボツリヌストキシンA注射の欠点を補うことができると考えられています。投与量や点滴時間の検証、低エネルギー衝撃波などとの組み合わせの効果の検証が進めば、従来の治療では改善が見られなかった難治の間質性膀胱炎・膀胱痛症候群が改善するものと思われます。

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