不妊性子宮内膜症にアスタキサンチンが有効 酸化ストレス・炎症が改善して治療効果もアップ
不妊症の一因となる子宮内膜症
学術顧問の望月です。直近4回の記事では、アスタキサンチンの機能性研究の最新情報をご紹介してきました。今回は、『Front. Endocrinol』に2023年に掲載された「Astaxanthin ameliorates inflammation, oxidative stress, and reproductive outcomes in endometriosis patients undergoing assisted reproduction: A randomized, triple-blind placebo-controlled clinical trial」を取り上げます。この論文では、子宮内膜症に対するアスタキサンチンの有効性が検証されています。
子宮内膜症とは、子宮内部を覆っている子宮内膜が、子宮の内側以外のところに発生してしまう疾患です。子宮内膜症は20~30代の女性に多い病気で、最も多いのは30~34歳であるといわれています。
子宮内膜症の原因のすべては解明されていませんが、女性ホルモンのエストロゲンの働きが病態に関わっていることがわかっています。子宮内膜症は、下腹部痛や腰痛、月経痛や性交痛などのほか、不妊症を引き起こすことがあります。不妊症になる頻度は、子宮内膜症を患っている患者さんの半数程度であると報告されています。
子宮内膜症の背景には、相互に影響を及ぼす酸化ストレスや慢性炎症の存在が隠れています。実際に子宮内膜症の患者さんでは、内因性の抗酸化酵素の活動の低下や活性酸素種の増加が認められています。さらに、NF-κB経路の活性化も確認されています。NF-κB経路が活性化すれば、血液や卵胞液におけるIL-1β、IL-6、IL-8、TNF-α、インターフェロン-γといった炎症誘発性サイトカインのレベルが上昇します。
強力な抗酸化作用や抗炎症作用を持つアスタキサンチンは、子宮内膜症の改善に有効です。本論文の著者らは、子宮内膜症の不妊女性を対象として、アスタキサンチンが炎症性サイトカイン、酸化ストレスマーカー、治療による早期妊娠に与える影響を調査しました。
検査値が改善して医療効果もアップ
試験には、卵子や精子を体外に取り出して体外で受精させる「ART(生殖補助医療)」を受けてきた不妊性子宮内膜症の患者さん50人(20〜40歳)が参加しています。腹腔鏡検査、組織病理学的検査で、ステージIII・IVの子宮内膜症であると診断された患者さんが対象です。この中には、抗酸化薬治療を受けている女性は含まれていません。
試験では、治療と並行して1日6mgのアスタキサンチンを飲んでもらう25人、1日6mgのプラセボを飲んでもらう25人に分けて、12週間の試験期間前後の血液と卵胞液のサンプルを採取。IL-1β、IL-6、TNF-αといった炎症誘発性サイトカイン、マロンジアルデヒド(MDA)、スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)、カタラーゼ(CAT)、総抗酸化能(TAC)といった酸化ストレスマーカーなどを測定するほか、グループごとのARTの効果も比較しました。
結果については、アスタキサンチン群とプラセボ群との間で違いが確認された主要項目のみ抜粋してご紹介していきます。アスタキサンチン群のスーパーオキシドジスムターゼと総抗酸化能は、ベースライン値よりも増加していました。また、脂質の過酸化の指標であるマロンジアルデヒドは治療後に有意に減少していました。
サイトカインについては、アスタキサンチン群の血液中のIL-1β とTNF-αが治療後に有意に低い値となっていました。卵胞液中のIL-1βに有意差はなかったものの、アスタキサンチン群のIL-6およびTNF-αは有意に低いという結果が得られています。
治療との相乗効果も認められています。ARTの後に取得された卵母細胞の数と成熟卵母細胞の数、質の高い胚を比較したところ、アスタキサンチン群では大幅な改善が確認されたのです。一方で、移植された胚の数、受精率と多胎妊娠率については両群に大きな差はありませんでした。
今回の研究は、ARTを受けている均一化された条件の不妊性子宮内膜症の患者さんを対象として、酸化ストレス、炎症性サイトカイン、治療効果にアスタキサンチンが与える影響を評価した初めての臨床試験です。著者らは、「アスタキサンチンは、子宮内膜症に関連する酸化ストレスと慢性炎症に対抗する有望なサプリメントであり、ARTによる卵母細胞および胚の質を高める可能性がある」と評価しています。
一方で、試験期間は12週間と限られていたため、ARTの効果として最も重要視される生児出生率を含む妊娠後期の転帰を評価できなかったことなどが課題として挙げられています。妊娠転帰を分析するには、より多くの患者さんを対象とする長期的な試験が必要です。研究の進展を見守っていきたいと思います。
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