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運動能力や筋肉の状態に対する乳酸菌の効果を検証 筋損傷や腎障害の検査値の改善効果を確認

そばの新芽の青汁を乳酸菌で発酵して得られる「発芽そば発酵エキス」には、「Lactobacillus plantarum(以下、L. plantarum)*」などの乳酸菌が含まれています。Lactobacillus plantarum PS128(以下、PS128)は、L. plantarumに属する菌株です。腸内細菌叢を調節するPS128には、抗酸化作用や抗炎症作用があります。酸化や炎症の抑制は、損傷した筋肉の回復に役立つと考えられています。今回は、運動後の筋肉の状態に対するPS128の効果をご紹介します。

*ゲノム解析の結果をもとにラクトバチルス属が25属に再分類され、「Lactobacillus plantarum」は「Lactiplantibacillus plantarum」に呼称が変更されました。

記事引用

抗酸化・抗炎症作用と筋肉の損傷

学術顧問の望月です。今回の記事では、『Nutrients』という学術誌に2022年に投稿された「Effect of Daily Oral Lactobacillus plantarum PS128 on Exercise Capacity Recovery after a Half-Marathon」という論文をご紹介します。この論文では、ハーフマラソン後の運動能力や筋肉の状態に対するPS128の効果が検証されています。

これまでの記事では、主に乳酸菌の免疫賦活作用や抗アレルギー作用などをご紹介してきました。乳酸菌には、抗酸化作用や抗炎症作用を持つ菌種があります。PS128は、その一つです。抗酸化作用や抗炎症作用は、筋肉の損傷を抑制したり、筋損傷の回復を促したりするのに有益であると考えられていますが、運動効果にフォーカスしたPS128の効果を検証した研究は知られていませんでした。

ランニングは、身心の健康にメリットをもたらす人気のスポーツです。ただし、長距離のランニングには下肢を痛めてしまうリスクがあります。疲労感や筋肉痛のほか、筋損傷が起こることも考えられます。筋損傷の程度は、血液中のCK(CPK)で評価することができます。血液中のCK(CPK)のほとんどは骨格筋に含まれるCK-MMという酵素が分解されたもので、筋肉の損傷が進むと数値は高くなるのです。

筋肉の損傷や機能の低下には、酸化ストレスが関わっていることがわかっています。実際に、激しい長距離走行による筋肉の微小損傷によって、活性酸素種の増加をはじめ、炎症、あるいは白血球の活性化が認められたことが過去の研究で報告されています。

筋損傷の治療で広く使用されているのが、「NSAID」と呼ばれる非ステロイド性抗炎症薬です。NSAIDは抗炎症作用や鎮痛作用のある優れた薬ではあるものの、腎機能障害などの副作用が懸念されています。アスリートにとっては、できることなら控えたい薬といえるでしょう。副作用のリスクを回避して、筋肉の損傷を減らしたり、回復を促進したりする方策が必要となっているのです。

PS128で活性酸素によるダメージが軽減

今回の研究では、PS128が研究対象となっています。試験に参加したのは8人のランナー(男性4人、年齢27.0±2.3歳。女性4人、年齢24.0±0.8歳)で、PS128食品を4週間飲んでもらった後と、プラセボ食品を4週間飲んでもらった後に臨んだハーフマラソンのデータが分析されました。データというのは、後述する運動能力テストと血液検査です。なお、それぞれの食品を摂取するタイミングは、朝・晩の1日2回に設定されています。

一般的に筋肉痛は約96時間続くといわれています。それを踏まえて、運動能力テストと血液検査は、各食品の摂取前、ハーフマラソンの48時間前、ハーフマラソンのスタート前、ハーフマラソンの3 時間後、24時間後、48時間後、72 時間後、96時間後に実施。運動能力テストでは下肢の筋力・下肢の爆発力・有酸素能力・無酸素能力が、血液検査では筋肉疲労・筋肉損傷・酸化ストレス・腎障害のバイオマーカーが評価されています。

それでは、結果を簡単にご紹介していきましょう。計21kmを走るハーフマラソンのタイムは、5kmおよび250mごとに記録され、4つの時間区分に分けられました(区分1:0〜5250m、区分2:5251〜10,500m、区分3:10,501〜15,750m:区分4:15,751〜21,000m)。PS128摂取時とプラセボ摂取時のハーフマラソンのトータルの結果に有意差はありませんでしたが、区分4ではPS128接種時のほうがプラセボ接種時よりも区間タイムが有意に早いことがわかりました。

また、プラセボ摂取時の下肢の筋力については、ハーフマラソン後72時間でPS128摂取時よりも有意に低いという結果が得られています。同様に、プラセボ摂取時のジャンプ力は、24時間前と比較して大幅に低下していました。一方、ハーフマラソン後の無酸素力と有酸素能力については、PS128摂取時とプラセボ摂取時の結果に有意差はありませんでした。

続いて、血液検査の結果を見ていきましょう。ハーフマラソン後、PS128摂取時はプラセボ摂取時よりもミオグロビンやクレアチンホスホキナーゼといった筋損傷や腎損傷の程度を示す数値が低く、回収された血中尿素窒素に含まれる活性酸素は、プラセボ摂取時においてPS128摂取時よりも高い数値が検出されました。

今回の研究のまとめとなりますが、PS128は、ハーフマラソンによって引き起こされる筋肉の損傷、腎臓の損傷、酸化ストレスの改善に役立つといえそうです。これは、⻑時間の運動によって引き起こされる活性酸素の害を和らげた結果であると考えられています。著者らは、「PS128は、アスリートにとって効果的なサプリメントとなる可能性がある。また、NSAIDの代わりにPS128を使用できれば安全性の面でもメリットがある」と話しています。

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