ケルセチンが関節リウマチに有効か リンパ球の酵素活性を阻害して症状改善
ADAという酵素の働きが活性化
学術顧問の望月です。今回の記事では、2024年に『Atta et al. Cellular & Molecular Biology Letters』に掲載された「Mechanistic role of quercetin as inhibitor for adenosine deaminase enzyme in rheumatoid arthritis: systematic review」をご紹介します。このレビューでは、関節リウマチに対するケルセチンの効果が検証されています。
慢性的な炎症によって関節が変形していく関節リウマチは、T細胞やB細胞といったリンパ球の誤作動が関与している自己免疫疾患の一つです。関節リウマチになると、関節包内の滑膜組織の活性化、軟骨および骨の浸潤、関節の機能不全などが起こります。関節の状態や臨床症状の悪化の背景には、自己抗体の存在が隠れています。
関節リウマチの発症や進行の鍵を握っているのが、「アデノシンデアミナーゼ(ADA)」という酵素の働きです。ADAはプリン代謝に必要な酵素で、アデノシンをイノシンに変換して細胞内および細胞外のアデノシン濃度を制御しています。
通常、1 μM未満に保たれている細胞外のアデノシンの濃度は、低酸素および炎症状態の環境下では100μM まで上昇するといわれています。実際に、関節リウマチの患者さんの関節液中においてADAの活性が増していることや、細胞外基質にあるコラーゲンやゼラチンなどを分解するMMP-9という酵素とADA、あるいはADAと同じ構造を持つたんぱく質の間に強い正の相関があることなどが確認されています。
これらのことから、関節リウマチの発症や進行を抑制するにはADAのコントロールが重要であることがわかります。なお、炎症を伴うほかのいくつかの疾患においても、ADA活性が増していることが報告されています。ADAは炎症状態を示す指標の一つでもあるのです。
現在、関節リウマチの治療において、主に4つのタイプのADA阻害剤の研究が進められています。具体的には、「遷移状態阻害剤」「基底状態阻害剤」「非ヌクレオシド阻害剤」「植物抽出物阻害剤」です。本レビューの主役であるケルセチンは、植物抽出物阻害剤の一つに該当します。
これまでの記事でも解説してきたとおり、発芽そば発酵エキスにも含まれているケルセチンには、強力な抗炎症作用や免疫調整作用があります。ここでは割愛しますので、よろしければケルセチンについて取り上げた過去の記事をご参照ください。
抗炎症作用でADA活性を抑制する
ケルセチンは、関節炎、アレルギー性関節炎、代謝性疾患、炎症性疾患など、さまざまな疾患の治療剤として研究されてきました。関節リウマチの治療におけるケルセチンの有効性を示唆する研究結果が報告されたのは、2023年のことでした。関節リウマチのラットモデルを用いた実験で、ADAの直接阻害に基づく抗炎症活性が証明されたのです。
別の研究では、IC50値が約0.00400005mg/mlのケルセチンがADAの阻害において最も強い効果を発揮することが明らかになっています。IC50値とは、酵素の活性を半減させるのに必要な濃度のことです。ケルセチンの摂取については、安全性も確立されています。
さらに組織学的研究では、ケルセチンの投与が浮腫の発生と炎症反応を抑制するのに有効であることも裏づけられています。先行研究では、ケルセチンが好中球活性化および滑膜細胞活性に対する炎症効果を減少させることが見出されているのですが、組織学的研究では先行研究の結果を支持する結果が得られたのです。
関節リウマチの病態生理学には、異常な活性を持つADAを含んだリンパ球が関与しています。ケルセチンにはリンパ球におけるADA活性を阻害する働きがあることも確認されています。専門的な話となりますが、T細胞恒常性の回復、Th17細胞分化の制御、Th17/Treg関連のサイトカインレベルの制御、自己抗体産生の減少、ヌクレオシド三リン酸ジホスホヒドロラーゼ(NTPDase)活性の制御の結果であることがわかっています。
レビューは、「抗炎症作用や免疫調節作用のあるケルセチンは、関節リウマチの治療に使用できる最も重要な植物抽出物の一つであると考えられる」と結ばれています。現時点では、試験管での細胞実験や動物実験が研究の中心となっています。今後、人間を対象とした臨床試験など、さらなる研究が発展していくことを期待しています。いずれにしても、抗炎症作用や免疫調節作用を持つケルセチンは、炎症性疾患の改善に有効であると考えてよさそうです。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?