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間質性膀胱炎・膀胱痛症候群 病態メカニズムと治療法の選択肢をレビュー
間質性膀胱炎・膀胱痛症候群には、慢性炎症、ウイルス感染、尿路上皮機能障害、感覚神経過形成、リンパ形質細胞浸潤、慢性リンパ濾胞凝集、膀胱壁肥厚、中枢神経系感作、膀胱外炎症、精神的ストレスなどが関わっています。症状の訴えは患者ごとに異なるため、治療の個別化が求められています。今回ピックアップしたレビューでは、1982年以降に報告された間質性膀胱炎・膀胱痛症候群の治療法が整理されています。
治療の個別化が求められる
学術顧問の望月です。2024年、最後の記事となりました。前回に続き、今回も間質性膀胱炎・膀胱痛症候群の研究情報をご紹介します。ピックアップしたのは、『Biomedicines』に2024年に掲載された「The Pathomechanism and Current Treatments for Chronic Interstitial Cystitis and Bladder Pain Syndrome」です。このレビューでは、間質性膀胱炎と膀胱痛症候群の病態メカニズムと治療法について整理されています。
間質性膀胱炎・膀胱痛症候群は、下腹部や骨盤、尿道に生じる膀胱痛、頻尿、夜間頻尿などの臨床症状を伴う慢性の膀胱疾患です。一部の症状は、過活動膀胱や急性細菌性膀胱炎の症状と似ているため、誤診に注意する必要があります。また、膀胱鏡検査によるハンナ病変の確認も重要です。ハンナ病変のない膀胱痛症候群の患者さんは、胃食道逆流症、筋筋膜痛、不眠症、うつ病、不安など、複数の症状を抱えていることもわかっています。
病態についてですが、間質性膀胱炎・膀胱痛症候群には、慢性炎症、ウイルス感染、尿路上皮機能障害、感覚神経過形成、リンパ形質細胞浸潤、慢性リンパ濾胞凝集、膀胱壁肥厚、中枢神経系感作、膀胱外炎症、精神的ストレスなどが関わっています。そのため治療では、さまざまな臨床症状、臨床症状を引き起こす根本的な病態生理、膀胱病変を見極めなければなりません。症状が多岐にわたるため、治療戦略の個別化が求められているのです。
1982年から2024年までに発表された論文を整理した本レビューでは、間質性膀胱炎・膀胱痛症候群の新しい治療法としてグリコサミノグリカン補充、ボツリヌス毒素A注射、多血小板血漿注射、低エネルギー衝撃波、免疫抑制剤、低用量経口プレドニゾロンなどが取り上げられています。いずれも過去の記事で取り上げてきた治療法です。各治療法を、簡単に振り返っていきましょう。
組み合わせによって治療効果が高まる
■グリコサミノグリカン補充
間質性膀胱炎・膀胱痛症候群の膀胱尿路上皮は、尿と膀胱壁を隔離する機能が損なわれています。グリコサミノグリカンの補充は尿からの毒素や溶質の流入から尿路上皮を保護し、感覚求心性神経の感作とさらなる慢性炎症を予防する治療法です。尿路上皮の保護法には、経口ペントサンポリ硫酸塩、ヘパリン、ヒアルロン酸、コンドロイチンの膀胱内注入が挙げられます。
ヒアルロン酸とコンドロイチンの併用の有効性、尿路上皮の再生の可能性などが報告されているものの、効果の持続性が課題となっています。持続的な効果を得るには、グリコサミノグリカンの反復注入、膀胱内ボツリヌス毒素A注射、膀胱内多血小板血漿注射、低エネルギー衝撃波など、慢性炎症を軽減して尿路上皮のバリア機能を回復させる治療との組み合わせが必要になるとされています。
■ボツリヌス毒素A注射
膀胱内ボツリヌス毒素A注射は、膀胱痛の軽減効果が報告されている治療法の一つです。水圧拡張を伴うボツリヌス毒素Aの反復注射は、膀胱痛および最大膀胱容量を改善させることが実証されています。間質性膀胱炎・膀胱痛症候群に対するボツリヌス毒素A注射の治療効果は一定の持続性があり、プラセボ療法よりも優れていることがわかっています。
■多血小板血漿注射
多血小板血漿には、炎症を抑制し、創傷治癒を促進する数種類の成⻑因子が豊富に含まれています。間質性膀胱炎・膀胱痛症候群の治療で多血小板血漿が初めて使用されたのは、2019年のことです。
臨床研究では、間質性膀胱炎症状指数、間質性膀胱炎問題指数、自覚している痛みの程度、機能的膀胱容量、頻尿、夜間頻尿など、測定されたすべての項目で改善が認められています。最初の多血小板血漿注射後の改善率は45%。4回めの注射から3ヵ月後には効果が高まり、改善率は67.5%になっていました。
■低エネルギー衝撃波
低エネルギー衝撃波による局所治療は、炎症を軽減して血液灌流を改善し、組織再生を促進する効果が実証されている治療法です。低エネルギー衝撃波療法を受けた間質性膀胱炎・膀胱痛症候群の患者さんは、プラセボ療法の患者さんよりも痛みの軽減が大きかったと報告されています。さらに、排尿頻度の改善も認められています。
なお、低エネルギー衝撃波と膀胱内ボツリヌス毒素 A注射を組み合わせた治療の効果も報告されています。具体的には、低エネルギー衝撃波が尿路上皮透過性を高めて、ボツリヌス毒素 A分子の尿路上皮バリアの浸透・通過が促進される可能性があることが示されています。ボツリヌス毒素 Aとの組み合わせについては、以下の記事でご紹介しています。
そのほかレビューでは、シクロスポリン、タクロリムス、プレドニゾロンといった免疫抑制剤を使用した治療、痛みを軽減するためのトリガーポイント療法、うつ症状を和らげるための抗不安薬・抗うつ薬を用いた治療についてもふれられています。間質性膀胱炎・膀胱痛症候群では、さまざまな症状を有する患者さんに対応できるように、異なる治療法の組み合わせが必要となっているのです。