アスタキサンチンの抗線維症効果 強力な抗酸化作用・抗炎症作用が鍵
慢性炎症が原因で起こる線維症
学術顧問の望月です。直近2回の記事では、神経障害と肥満を対象としたアスタキサンチンの研究情報を取り上げました。今回は、『Pharmacol Res』という学術誌に掲載された「Astaxanthin: A promising therapeutic agent for organ fibrosis」という論文をご紹介します。このレビューでは、さまざまな臓器で起こる線維症に対するアスタキサンチンの効果が検証されています。
線維症は、「炎症性因子の産生、線維芽細胞の活性化と増殖によって細胞外マトリックス(ECM)が過剰に蓄積した状態」と定義されています。簡単にいうと、組織や臓器に弾力がなくなって線維化した状態が線維症です。線維症は、肝臓、肺、心臓、腎臓を含む、ほぼすべての臓器で起こります。線維症が悪化すると臓器の機能不全につながり、最終的には臓器不全になります。
線維症の原因は組織によって異なりますが、共通しているのは、慢性炎症、酸化ストレス、老化などの関与です。組織の損傷により、サイトカインやケモカインといった炎症性メディエーターの放出が増加すると、マクロファージ、リンパ球、好酸球、好塩基球、マスト細胞、多形核白血球などの炎症細胞が凝集。これらが、線維症を引き起こす線維芽細胞や筋線維芽細胞といったエフェクター細胞に悪い影響を与えてしまうのです。
エフェクター細胞を活性化させて線維化のスイッチを入れる最も強いメディエーターの一つと考えられているのが、「TGF-β」と呼ばれるサイトカインです。TGF-βシグナル伝達経路に加えて、血小板由来増殖因子(PDGF)、結合組織増殖因子(CTGF)、インテグリン、アンギオテンシンIIやエンドセリン-1などの血管作動性のペプチドも、線維症に関与していることがわかっています。
線維症に対する栄養介入は、近年注目されている新たな研究テーマの一つです。抗酸化作用・抗炎症作用を持つアスタキサンチンは、潜在的な抗線維化剤であると考えられています。実際に、細胞モデルや動物を対象とした実験では、アスタキサンチンが肝臓、肺、心臓、腎臓などの多くの臓器において抗線維化効果を発揮することも確認されているのです。
抗炎症作用で線維化のシグナルを遮断
ここからは、いくつかの研究を簡単にご紹介していきます。よく知られている線維症の一つが、肝線維症です。肝線維症は、ウイルス性肝炎、アルコール性・非アルコール性の肝炎などが原因で起こります。肝線維症の末期の病状が肝硬変で、最終的には肝不全になるリスクがあります。
海外の研究では、アスタキサンチンが肝星細胞を活性化するほか、炎症・酸化ストレスを阻害することによって、肝線維症の発生と進行を抑制することが報告されています。これらのメカニズムは相互に作用するもので、肝星細胞の活性化を促進するTGF-β1の発現をアスタキサンチンが抑制することなどがわかっています。これは、核内におけるNF-κBの濃度をアスタキサンチンが低下させた結果であることが明らかになっています。
肝線維症と並んで広く知られているのが、肺線維症です。肺線維症は、新型コロナウイルスの感染拡大によって注目を集めました。肺において線維化が進むと、肺が硬くなる間質性肺炎になります。肺機能は不可逆的に低下していき、最終的に呼吸不全に至るのです。ほかの線維症と同様、いまのところ限られた治療法しかありません。
肺線維症の特徴として挙げられるのが、線維芽細胞の蓄積と肺胞上皮の露出です。2013年、細胞モデルの研究でアスタキサンチンが線維芽細胞と上皮細胞の増殖と分化転換を防ぐことが明らかになると、薬剤によって誘発した肺線維症の動物モデルに対する有効性も確認されました。人間の細胞を用いた研究では、アスタキサンチンが筋線維芽細胞のアポトーシスを促進し、肺胞上皮細胞のアポトーシスを阻害することによって肺線維症を防ぐことがわかっています。
今回の記事では肝線維症と肺線維症の研究の一部をご紹介しましたが、レビューでは心線維症と腎線維症に対する有効性を示すデータも取り上げられています。ただ、先述のとおり、現在の研究の中心は細胞モデルと動物モデルです。臨床試験による評価は十分とはいえず、結果にもばらつきが見られています。
著者らは、「人間を対象とした場合、摂取したアスタキサンチンの中から全身を循環する量が低いことが障害となっている可能性がある」としています。人間に対する効果には、アスタキサンチンの供給源や個人の食生活なども関与しています。今後、より質の高い研究が継続的に行われることで、アスタキサンチンの抗線維症効果は明らかになっていくでしょう。
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