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アルコール性肝障害に対するケルセチンの効果 酸化ストレス・肝細胞の損傷を軽減

アルコール性肝障害は、アルコールの過剰摂取が原因で起こる肝臓病の一つです。少しずつ悪化していくアルコール性肝障害を放置すると、肝硬変や肝臓ガンに進行するリスクが高くなります。アルコール性肝障害の背景に隠れているのは、正常な細胞を維持するオートファジーという機構の異常です。強力な抗酸化作用・抗炎症作用を持つケルセチンには、オートファジーの働きを調節してアルコール性肝障害を予防する効果があります。

アルコールの摂取でオートファジーの機能が低下

学術顧問の望月です。今回の記事では、2023年に『PeerJ』に投稿された「Progress in the mechanism of autophagy and traditional Chinese medicine herb involved in alcohol-related liver disease」をご紹介します。このレビューでは、アルコール性肝障害(ALD)に関与しているオートファジーのしくみのほか、アルコール性肝障害に対する天然由来成分の効果が検証されています。注目の機能性成分の一つとしてピックアップされているのが、ケルセチンです。

ケルセチンは、タマネギやソバをはじめとする多くの植物に含まれるフラボノイドの一種です。不二バイオファームで製造している「発芽そば発酵エキス」にも豊富に含まれています。そばの新芽の青汁を発酵させた発芽そば発酵エキスについては、リンクを入れている過去の記事をご参照ください。

アルコール性肝障害は、アルコールの過剰摂取が原因で起こる肝臓病の一つです。「肝細胞における脂肪滴の増加」「酸化ストレスによる肝細胞の損傷」が病態の特徴で、肝臓の炎症や線維化が進んでいきます。アルコール性脂肪性肝炎(ASH)、アルコール性肝炎(AH)、慢性肝炎、肝硬変といった組織学的段階はよく知られており、アルコールの過剰摂取は、最終的に肝細胞ガンを引き起こす可能性があります。

アルコール性肝障害は少しずつ悪化していくもので、⻄洋医学では治療効果が得られないことも少なくありません。近年、漢方薬などをはじめとする天然由来成分と肝臓におけるオートファジーに関する研究が進められています。オートファジーとは、簡単にいうと、細胞の状態を正常に保つためのしくみです。古くなったたんぱく質を定期的に分解していくことで、体内のフレッシュな細胞は維持されています。

オートファジーが適度に働いていれば、細胞あるいは体の恒常性は維持されます。一方、オートファジーの過剰な活性化は、細胞のアポトーシスを引き起こします。これまでの研究で、アルコール性肝障害はオートファジーに悪影響を与え、有害なアルコール代謝物の蓄積を促す可能性が示されています。複雑なメカニズムですが、これまでにオートファジーに関連する30の遺伝子、オートファジーを制御するいくつかのたんぱく質が特定されています。

レビューでは、PubMedやCNKIなどから抜粋した103の論文をもとに、アルコール性肝障害に対する漢方薬抽出物、ケルセチン、バイカリン、グリシクマリン、サルビアノール酸A、レスベラトロール、ジンセノサイドRg1、ジヒドロミリセチンなどの治療効果が分析されています。この記事では、ケルセチンの研究情報をご紹介していきます。

ケルセチンで脂肪肝も改善

ケルセチンがアルコール性肝障害に有効であることは、多くの研究者から報告されています。エタノールで肝損傷を引き起こしたラットを使った研究では、ケルセチンがALT/ASTを低下させて、脂肪滴を縮小させることが確認されています。また、ミトコンドリアの酸化ストレスや機能不全を改善させることも明らかになっています。

別の研究では、ケルセチンがNrf2という経路を介してエタノール誘発性の肝臓障害を防止することが示されました。このときに明らかになったのが、オートファジーの調節にNrf2が関わっていることです。すべての解明には至っていませんが、オートファジーが阻害されたときに顕著に増加するp62というたんぱく質がキーマンの一つであると考えられています。蓄積されたp62 が Nrf2 の非標準的活性化を引き起こし、その結果、オートファジーの活性が抑えられるのです。

レビューでは、ケルセチンが急性、慢性的なエタノール摂取によるマウスの脂肪肝および肝損傷を改善するという報告も引用されています。この研究では、オートファジーを積極的に制御することにより、脂肪肝を軽減することができると結論づけられています。

そのほか、15 週間アルコールを与えたマウスの細胞核を調べる研究では、オートファジーを介したアルコール性肝障害を予防する薬剤標的としてケルセチンが使用できる可能性について報告されました。さらに、肝臓のミトコンドリアのオートファジーに対するエタノールの阻害効果を抑制して、ケルセチンがアルコール性肝障害を予防することが確認されています。

これには、マイトファジーの働きも関係しています。マイトファジーとは、オートファジーを介してミトコンドリアを選択的に分解するしくみのことです。マイトファジーの働きによって、ミトコンドリアの機能障害が関与している疾患から私たちの体は守られています。研究の結果、ケルセチンはAMPKおよびERK2という経路を介してマイトファジーを調節していることが明らかになっています。

抗酸化作用や抗炎症作用を持つケルセチンは、オートファジーとマイトファジーを調節することで肝臓を保護するというのがレビューの結論です。アルコール性肝障害に関わるさまざまな経路を分析して、臨床現場での効果の検証も重ねていけば、ふだんの食事で摂取しやすいケルセチンは、より身近な肝臓保護剤となるかもしれません。

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