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乳酸菌発酵でGABA含有量が増加 発酵の最適条件を特定

乳酸菌によって作り出される生物活性化合物は、「ポストバイオティクス」と呼ばれています。γ-アミノ酪酸(GABA)は、不安感や不眠、高血圧の改善など、健康へのメリットのあるポストバイオティクスの一つです。乳酸菌によるGABAの産生量は、接種する菌の比率、培地の初期pH、グルタミン酸ナトリウム(MSG)やグルコースの濃度などの条件によって異なることが知られています。今回は、L. plantarum K16株を用いた研究の一例をご紹介します。

ポストバイオティクスで最も有望なGABA

学術顧問の望月です。2023年の初回となる今回の記事では、『Scientifc Reports』に2022年に掲載された「Biosynthesis of gamma-aminobutyric acid by Lactiplantibacillus plantarum K16 as an alternative to revalue agri-food by-products」という論文をピックアップしました。

不二バイオファームでは、そばの新芽の青汁を乳酸発酵して得られる「発芽そば発酵エキス」を製造しています。発芽そば発酵エキスには、ルチンやケルセチンなど健康の維持・増進に役立つ成分が豊富に含まれています。神経伝達物質の一つであるGABAも、私たちが注目している機能性成分の一つです。ご存じのとおり、GABAには不安を和らげたり高い血圧を下げたりする働きがあります。

発芽そば発酵エキス中のGABAは、乳酸発酵によって増加しています。具体的には、そばの新芽のGABA含有量は100gあたり10.7mgであるのに対し、発芽そば発酵エキスには100gあたり152.4mgのGABAが含まれていることが明らかになっているのです。

乳酸菌が作り出す生物活性化合物は、「ポストバイオティクス」と呼ばれています。ポストバイオティクスに分類される化合物には、GABAをはじめとする神経伝達物質のほか、ビタミンやミネラル、アミノ酸や脂質化合物などが挙げられます。

今回の研究では、最も有望なポストバイオティクスとしてGABAに着目。キムチから分離されたL. plantarum K16株を用いて、GABAを効率的に合成する発酵条件を明らかにしています。さらに、トマト、ピーマン、リンゴ、オレンジといった農産物を培地としたときのGABA産生量についても考察が加えられています。

接種率・pH・MSG濃度・グルコース濃度を最適化

GABAの合成は通常、グルタミン酸デカルボキシラーゼ経路(GAD)という経路を介して行われています。GAD経路のパフォーマンスは、温度、初期pH、酸素の利用可能性など、いくつかの条件を変えることで調整可能です。さらに別の要素として、ミネラル、補酵素、窒素、炭素源、添加物などの種類や濃度の違いもGABAの産生量に影響を与える可能性があるといわれています。

今回の研究でチェックされた項目は、L. plantarum K16株の接種率、培地の初期pH、MSG濃度、グルコース濃度です。それぞれの条件を少しずつ変えながらGABAの量を比較していき、著者らは最適な発酵の条件を探っていきました。

L. plantarum K16株の適切な添加量を検証する接種率の比較では、1.2%の接種材料を使用したときに、GABA産生は1419.93±57.47 mg/Lと大幅に増加。このときのpH は4.30±0.16、微生物増殖は7.31±0.41log CFU/mLでした。また、GABAの産生量に有意な増加が認められ、最大値である1419.93±57.47 mg/Lとなる初期pHは5.5、MSG濃度は500mM、ブドウ糖濃度は25 g/Lであることが確認されました。

「Biosynthesis of gamma-aminobutyric acid by Lactiplantibacillus plantarum K16 as an alternative to revalue agri-food by-products」より

著者らは、今回の試験で得られた最適な発酵の条件下で、リンゴ、オレンジ、ピーマン、トマトを培地として用いた場合のGABAの生産量についても調査しています。結果は、それぞれ1166.81±27.46mg/L、1280.01±59.22mg/L、1626.52±55.9mg/L、1776.75±109.49mg/L。一方、対照として設けられたMRSという培養液中で生成されるGABAの量は2115.7±73.83mg/Lでした。

関連の研究では、GABA生産量は培地の栄養組成によって異なることも明らかになってきました。例えば、GABAとたんぱく質の含有量およびグルコース濃度の間には強い相関が観察されています。多くのたんぱく質と糖質を含む農産物は、 GAD経路を強化する可能性があるそうです。各農産物の組成を特徴づけていけば、それぞれのGABA生産を最大化する条件も見えてくるものと思われます。

今回の研究はL. plantarum K16株に限定したものとなっていますが、発芽そば発酵エキスの製造工程でもL. plantarumが使用されています。発酵の条件を少し見直すだけで、発芽そば発酵エキスに含まれるGABAの量も増やせるかもしれません。

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