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強力な抗酸化・抗炎症作用が鍵 婦人科疾患に対するケルセチンの効果をレビュー

強力な抗酸化作用・抗炎症作用を持つケルセチンは、ガンや心血管疾患の予防や治療で使用されています。ケルセチンは、婦人科疾患にも有効です。国内外で、多嚢胞性卵巣症候群、早発卵巣不全、子宮内膜症、卵巣ガン、子宮頸ガン、子宮内膜ガンなど、さまざまな疾患を対象とする研究が進められています。

酸化ストレス・慢性炎症と婦人科疾患

学術顧問の望月です。前回の記事では、生体内におけるケルセチンの効果を高めるナノ化技術の研究をご紹介しました。今回の記事でも、ケルセチンの研究情報をご紹介します。2024年に『Biomedicine & Pharmacotherapy』に掲載された「Therapeutic effects and molecular mechanisms of quercetin in gynecological disorders」というレビューでは、婦人科疾患に対するケルセチンの治療効果や分子機構が整理されています。

代表的なフラボノイドとして知られるケルセチンは強力な抗酸化作用、抗炎症作用を持っており、婦人科疾患に対して顕著な薬理効果を発揮するといわれています。しかし、多嚢胞性卵巣症候群、早発卵巣不全、子宮内膜症、卵巣ガン、子宮頸ガン、子宮内膜ガンなど、婦人科疾患に対するケルセチンの有効性を整理したレビューは過去に発表されていませんでした。

本レビューの主な対象は、多嚢胞性卵巣症候群、早発卵巣不全、子宮内膜症、卵巣ガン、子宮頸ガン、子宮内膜ガンを有している、かつケルセチンまたはケルセチンとほかの薬剤を併用している雌マウスです。プラセボまたはケルセチン以外の薬を使用しているマウスをブランク対照群として、病変の炎症の程度や大きさの変化、月経困難症の期間などを比較しています。論文の種類はランダム化比較試験です。さっそくですが、各疾患に対するケルセチンの働きを見ていきましょう。

●多嚢胞性卵巣症候群
多嚢胞性卵巣症候群は、卵胞の成長に時間がかかり、排卵が起こりにくくなる病気です。高アンドロゲン血症、インスリン抵抗性、脂質異常症などと関係していることがわかっています。多嚢胞性卵巣症候群の治療の第一選択肢とされている薬には心血管や脳卒中といった副作用があり、不妊症の治療や内分泌機能を調節する新規治療薬が求められています。

多嚢胞性卵巣症候群の発症には、慢性炎症や酸化ストレスが関わっています。レビューでは、ケルセチンが卵巣組織において、炎症に関連するOx-LDL/TLR-4/NF-κB経路を通じてIL-1β、IL-6、TNF-αといった炎症性サイトカインの発現を阻害し炎症を抑制すること、多嚢胞性卵巣症候群の発症に関わるスーパーオキシドジスムターゼ(SOD)、カタラーゼ(CAT)、マロンジアルデヒド(MDA)のレベルを改善させることなどが紹介されています。

臨床試験も実施されています。無作為化プラセボ対照二重盲検臨床試験では、患者さんが1日500mgのケルセチンを40日間摂取した結果、多嚢胞性卵巣症候群に関する炎症パラメータとホルモンパラメータが改善したことなどが報告されています。

ホルモンバランスの改善も期待

●早発卵巣不全
早発卵巣不全は、40歳未満で卵巣機能が低下して、低エストロゲン状態や無月経になる病気です。化学療法薬や抗ガン剤などは、卵巣の機能低下や損傷を引き起こし、早発卵巣不全のリスクを高めることがわかっています。

酸化ストレスや過剰な活性酸素は、早発卵巣不全の病態に関わっています。卵巣の脂質過酸化とDNA酸化損傷を招き、卵巣の機能不全と卵母細胞の品質の低下を引き起こすのです。早発卵巣不全の患者さんのSOD、グルタチオンペルオキシダーゼ(GSH-PX)といった抗酸化酵素の活性は低く、酸化ストレスの指標であるMDAは高いことがわかっており、酸化ストレスと早発卵巣不全の相関関係が明らかになっています。

アルキル化剤シクロホスファミドという化学療法薬による早発卵巣不全を引き起こしたマウスモデルを使った実験では、ケルセチンがSOD、GSH-PX、CATといった抗酸化酵素を活性化し、MDAのレベルを低下させることが確認されています。アルキル化剤シクロホスファミド曝露後の抗酸化作用を、ケルセチンが強化しているのです。

さらにケルセチンは、PI3K/Akt/FoxO3aシグナル伝達経路を抑制することにより、早発卵巣不全のモデルマウスにおいて卵巣機能不全を回復させ、卵胞発育を促進することが示唆されています。また、ケルセチンはPI3K/Akt/Foxo3a経路の活性化を抑制して、アルキル化剤シクロホスファミドへの曝露後の一次卵胞産生を刺激することもわかっています。数々の研究を整理すると、ケルセチンは卵巣機能を保護するといえそうです。

●子宮内膜症
子宮内膜症は、子宮の内側の壁を覆っている子宮内膜が、子宮の内側以外の部位に発生する病気です。メカニズムのすべては解明されていないものの、慢性炎症が特徴で、不妊症や再発しやすい悪性ガンを引き起こすエストロゲン依存性疾患の一つとして知られています。ほかの婦人科疾患と同様、子宮内膜症も酸化ストレスの影響を受けています。

ケルセチンはFSHおよびLHレベルを低下させ、ラットモデルにおける異所性子宮内膜のサイズを縮小させます。さらに、視床下部、下垂体、および子宮内膜におけるエストロゲン受容体α(ERα)やERβ、プロゲステロン受容体の発現を下方制御することが明らかになりつつあります。これは、ケルセチンにエストロゲンおよびプロゲステロンを阻害する能力があることを示しています。そのほか、卵巣機能マーカーのレベルの増加と卵巣の形態改善の効果が得られることも過去の研究では報告されているのです。

ガンについては、これまでの記事でも取り上げてことがあるので今回は割愛しますが、レビューでは卵巣ガン、子宮頸ガン、子宮内膜ガンに対するケルセチンの効果についても整理されています。シグナル伝達経路など、ケルセチンの作用機序の解明も進められています。

今後は、婦人科疾患の管理におけるケルセチンの有効性を評価するとともに、安全性の検証も含めたより規模の大きい研究が必要でしょう。研究の進展を注視していきたいと考えています。

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