見出し画像

L. lactis乳酸菌の抗ストレス作用を検証 ストレスホルモンの上昇抑制効果を確認

前回の記事では、不二バイオファームで製造している「発芽そば発酵エキス」にも含まれている「Lactococcus lactis(以下、L. lactis)」のウイルス感染症に対する予防効果をご紹介しました。抗アレルギー作用などを持つことでも知られているL. lactisには多岐にわたる健康効果があり、日本で行われた試験では、「Lactococcus lactis subsp cremoris(以下、YRC3780)」の抗ストレス作用が確認されました。

腸と脳に対する乳酸菌の効果を検証

学術顧問の望月です。今回の記事では、乳酸菌の抗ストレス作用に関する研究情報をご紹介します。『European Journal of Clinical Nutrition』に2022年に投稿された「Effects of Lactococcus lactis subsp cremoris YRC3780 daily intake on the HPA axis response to acute psychological stress in healthy Japanese men」では、ケフィアから分離されたYRC3780の抗ストレス作用が報告されています。

前回の記事でご紹介したプラズマ乳酸菌(LC-Plasma)と同じL. lactisに属するYRC3780は、抗アレルギー作用などを持つ乳酸菌として広く知られています。乳酸菌は、腸の免疫細胞に働きかけて健康効果を発揮します。近年の研究では腸と脳の相互作用が明らかになりつつあり、ストレスに対する乳酸菌の効果にも注目が集まっています。

人間はストレスにさらされると、ストレスホルモンであるコルチゾールや心拍数のレベルが高くなります。この反応に関係しているのが、「視床下部-下垂体-副腎系(HPA)」「交感神経-副腎髄質系(SAM)」と呼ばれるシステムです。HPAのストレス応答は、ストレスはもちろんのこと、サーカディアンリズム(概日リズム)や睡眠などの影響を受けています。YRC3780は、概日リズムや睡眠、ストレスに対して、どのような影響を与えるのでしょうか。

2018年から2019年にかけて北海道大学で実施された試験には、27人の健康な若い男性が参加。彼らをYRC3780群14人とプラセボ群13人の2群に分けて、対象となった食品をそれぞれに8週間飲んでもらい、研究チームは摂取時間・起床時間・就寝時間・食事時間といった試験期間中の生活とともに、睡眠の質・メンタルの状態などを収集・評価していきました。

今回の研究では、YRC3780とプラセボの摂取開始から2週間ごとに唾液サンプル、試験前、開始2週間後、4週間後に便サンプルが採取され、それぞれコルチゾールレベルあるいは糞便微生物叢が分析されています。唾液のサンプルは、該当日に複数回(起床後2時間間隔)採取してもらっています。

YRC3780は朝のストレス軽減に有効か

試験前と摂取2 週間後では、両群の唾液コルチゾール濃度に有意差はありませんでしたが、摂取4週間後から差がついてきました。YRC3780群の朝の唾液コルチゾール濃度は、プラセボ群と比較してわずかに減少していたのです。6週間後には、YRC3780群の唾液コルチゾール濃度はプラセボ群よりも有意に低くなりました。YRC3780群における唾液コルチゾール濃度の低下は、摂取8 週後も維持されていたことが確認されています。

コルチゾール濃度の推移を確認すると、ストレステストによるHPAシステムの状態が検証されました。過去の報告をもとに、一定の数値で試験参加者を唾液コルチゾール濃度が増えた人(応答者)と増えなかった人(非応答者)に分け、それぞれのデータを分析していくという内容です。グループ分けした結果、応答者は15人(うちYRC3780群8人、プラセボ群7人)、非応答者は12人(うちYRC3780群6人、プラセボ群6人)となりました。

応答者のストレステストでは、テスト直後の唾液コルチゾール濃度の上昇はプラセボ群よりもYRC3780群のほうが低く抑えられたという結果が得られました。40分後の唾液コルチゾール濃度では、プラセボ群が7.6±4.7 nmol/Lだったのに対しYRC3780群は4.2±4.4 nmol/Lという結果になり、有意差も認められています。一方で、心拍数には両群に明確な差はありませんでした。

非応答者を対象としたストレステストでは、唾液コルチゾール濃度の上昇は見られませんでした。しかし、興味深いことに、ストレステスト後の心拍数は応答者と同様、YRC3780群とプラセボ群の両群において増加していることがわかりました。SAMなど、HPAとは別のシステムの関与を示す結果です。

今回の試験では、HPAシステムの基礎活動は午後や夕方よりも朝の時間帯に活発になるという概日リズムを持つ可能性が示唆されました。YRC3780群におけるストレステスト後の唾液コルチゾール濃度の上昇抑制は、ストレスを受けた朝のコルチゾール濃度の低下を受けた結果であると分析されています。

睡眠やメンタルについては、睡眠の質を測定するスコアと精神状態を数値化する指標を採用。6週間後の睡眠スコアと8週間後の精神状態のスコアでは、プラセボ群よりもYRC3780群のほうが有意に低いという結果が得られました。客観的な睡眠の質を評価するスコアで有意差は認められなかったものの、主観的な睡眠の質などに対するYRC3780の一定の効果が示されたといえそうです。一方、便の分析では、両群の腸内細菌叢の状態に違いは認められませんでした。

結果を整理していきましょう。今回の研究では、YRC3780の摂取によってHPAシステムが反応して、主観的な睡眠の質やメンタルの状態が改善する可能性が示唆されました。

一方で、ストレステストでは、応答者と非応答者の唾液コルチゾール濃度の変化は著しく異なりました。今後は、HPAとSAMの両システム、腸内細菌と脳の関連など、さらなるメカニズムが明らかになっていくものと思われます。今回は若い男性が試験の対象となっていましたが、女性や高齢者に対する効果にも注目したいところです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?