骨芽細胞と破骨細胞のバランスを調整 骨粗鬆症に対するケルセチンの効果を検証
骨粗鬆症、治療の課題は副作用
学術顧問の望月です。前回に続いて、今回の記事でもケルセチンの研究情報をご紹介します。ピックアップしたのは、2024年に『Front Pharmacol』に掲載された「Pharmacological and mechanistic aspects of quercetin in osteoporosis」です。このレビューでは、骨粗鬆症に対するケルセチンの効果が検証されています。
転倒・骨折、寝たきりの原因となる骨粗鬆症は、骨密度と骨質の低下によって骨がもろくなる病気です。加齢、女性ホルモンの減少、運動不足などが原因であることが知られています。日本における骨粗鬆症の患者数は約1280万人で、そのうち男性は300万人、女性は980万人と、圧倒的に女性に多い病気です。なお、50歳以上の女性の3人に1人は骨粗鬆症であるというデータもあります。
骨粗鬆症の治療では、食事・運動といった生活習慣の改善のほか、薬物療法が検討されます。治療薬には、「骨吸収を抑制する薬」「骨形成を促進する薬」「骨代謝を調節する薬」などが挙げられます。しかし、これらの治療薬は長期使用に適さないものも少なくありません。副作用があるからです。
レビューでは、骨粗鬆症治療の代替療法として天然化合物の機能性に注目しています。その中の一つがケルセチンです。強力な抗酸化作用や抗炎症作用を持つケルセチンは、タマネギなどに含まれているポリフェノールの一種です。不二バイオファームで製造している発芽そば発酵エキスにも、ケルセチンは含まれています。
健康な骨は、新しい骨を作り出す骨芽細胞と古くなった骨を破壊して回収する破骨細胞による骨代謝で維持されています。簡単にいうと、破骨細胞が取り除いた古い骨を骨芽細胞が作った新たな骨で補強できなくなると、骨はもろくなっていくというわけです。
ケルセチンには、骨芽細胞の分化と活性を増加させ、破骨細胞の分化と活性を低下させる働きがあることが明らかになってきました。レビューでは、「骨芽細胞による骨形成を促進するメカニズム」「破骨細胞による骨吸収を抑制するメカニズム」に分けて、ケルセチンの働きが整理されています。
抗酸化作用で骨芽細胞の働きを維持
骨芽細胞による骨形成は、細胞の増殖、細胞外基質の成熟、細胞外基質の石灰化、アポトーシスといったプロセスを経て行われています。最終的に正常な骨ができるまでには、これらの過程においてさまざまな転写因子やシグナル伝達経路の影響を受けています。
難しい話になりますが、ケルセチンは骨形成に関わる骨芽細胞特異的転写因子の制御、Wnt/β-カテニンシグナル伝達経路の制御、BMP-2/SMADs/RUNX2シグナル伝達経路の制御、抗アポトーシス媒介経路の制御、酸化ストレス媒介経路の制御、骨基質の形成と石灰化の促進に影響を与えていることがわかっています。
複雑なメカニズムの説明は割愛しますが、著者らは、酸化ストレスが骨粗鬆症における骨代謝に大きな影響を与えているとしています。ケルセチンは、特定のシグナル伝達経路における酸化ストレスの悪影響を軽減。骨芽細胞になる骨髄間葉幹細胞の生存力と骨芽細胞への分化を維持することが実験で証明されています。
炎症の抑制で骨の破壊を軽減
一方の破骨細胞は、骨髄単球前駆体の融合によって形成されています。これらは、骨基質を溶解する酸(塩酸)を分泌することによって骨の吸収と再構築を促進します。破骨細胞が過剰に活動している場合、または過剰に増えた場合、骨芽細胞と破骨細胞のバランスが崩れます。過度の骨吸収によって骨粗鬆症を引き起こすのです。
レビューでは、破骨細胞による骨吸収を抑制するメカニズムが解説されています。ケルセチンの関与が明らかになっているのが、破骨細胞特異的転写因子の制御、ERK1/2/JNKシグナル伝達経路の制御、炎症因子の調節です。
ここでは、炎症因子の調節について説明を少し加えておきます。炎症誘発性および抗炎症性の炎症因子は、さまざまなシグナル伝達を介した破骨細胞の形成に関与しており、骨吸収や骨粗鬆症の発症に影響を与えています。ケルセチンは、炎症に関わるTNF-αおよび IL-1βのレベルを大幅に低下させ、破骨細胞の過剰な活性化を阻害して骨の破壊を軽減することが明らかになっています。
今回、ケルセチンの骨形成の促進効果、骨吸収の阻害効果をご紹介しました。著者らは、「ケルセチンは、骨粗鬆症の予防・治療のための潜在的な薬剤となりうる」と結んでいます。臨床試験など、今後の研究にも期待したいところです。
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