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間質性膀胱炎の治療選択肢に関する最新情報、海外のレビュー論文から
2019年に『間質性膀胱炎診療ガイドライン』が改定され、「ハンナ型」「非ハンナ型」とされてきた間質性膀胱炎は、ハンナ病変があれば「間質性膀胱炎」、ハンナ病変がなければ「膀胱痛症候群」として分類されるようになりました。一方、間質性膀胱炎・膀胱痛症候群の原因は、いまだ解明されていません。現在、治療の選択肢にはどのようなものがあるのでしょうか。海外のレビュー論文をご紹介します。
間質性膀胱炎・膀胱痛症候群の治療のステージ
学術顧問の望月です。2021年に入って、初めての投稿となります。不二バイオファームでは、間質性膀胱炎に関する論文を集めています。間質性膀胱炎の患者さんやその家族にとっても有益なものがあるかもしれないと思い、社内で共有するために整理した情報を公開してきました。引き続き情報収集を続けていきますので、本年もよろしくお願いいたします。
さて、今回は『Menopause』に2020年に掲載された「An update on treatment options for interstitial cystitis」をご紹介します。日本語にすると、「間質性膀胱炎の治療選択肢に関する最新情報」というタイトルのレビュー論文です。著者のSimone Garzon氏らは、間質性膀胱炎・膀胱痛症候群の治療法・有効性を整理しています。
従来、「ハンナ型」「非ハンナ型」に分けられてきた間質性膀胱炎ですが、日本では2019年の診療ガイドラインの改訂以降、ハンナ病変があれば「間質性膀胱炎」、ハンナ病変がなければ「膀胱痛症候群」として分類されるようになりました。これらの経緯などについては、以前の記事を参照してください。
病気の改善には、正確な診断を経て、原因を取り除くことが必要です。ただ、間質性膀胱炎・膀胱痛症候群の場合、病因が完全には明らかになっていないという難しさがあります。以前の記事でご紹介したとおり、画像診断を担う医師(医療機関)ごとの見解のばらつきが大きい可能性も指摘されています。間質性膀胱炎・膀胱痛症候群の治療は現在、どのように進められているのでしょうか。
Simone Garzon氏らは、間質性膀胱炎・膀胱痛症候群の治療を「第1の選択肢(食事や行動の見直しなど)」「第2の選択肢(経口治療)」「第3の選択肢(膀胱内の物理治療)」「第4の選択肢(神経調節)」「最後の選択肢(外科的アプローチ)」に分類しています。患者さんへの負担が小さい順に並んでいます。それぞれの効果を検証しながら、治療の組み合わせなどを検討していくのが主流です。
第1の選択肢(食事や行動の見直しなど)
第1の選択肢には、コーヒー・お茶・アルコール・チョコレート・辛い食べ物の摂取量を減らす食事制限をはじめ、骨盤底リラクゼーション運動、膀胱訓練、針治療、温熱療法(冷熱療法)、ストレス管理による心理的サポートなどが挙げられています。安価でリスクもほとんどないため、第1の選択肢として奨励されています。
第2の選択肢(経口治療)
保存療法といえる第1の選択肢と組み合わせる必要のある第2の選択肢には、米国食品医薬品局(FDA)によって承認されているペントサンポリ硫酸をはじめ、アミトリプチリンなどの抗うつ薬、シメチジンやヒドロキシジンなどのヒスタミン受容体阻害剤、ロイコトリエン受容体拮抗薬であるモンテルカストといった薬剤の投与が挙げられています。ヒスタミンやロイコトリエンは、間質性膀胱炎・膀胱痛症候群の症状を引き起こす情報伝達に関わる物質とされています。
リンク:間質性膀胱炎の再発減へ、DMSO膀胱内注入の可能性──浜松医科大学の臨床試験の結果から
間質性膀胱炎・膀胱痛症候群には自己免疫疾患がかかわっている可能性についても報告されており、免疫抑制剤であるシクロスポリンAが治療に使用されることもあります。副作用がありますので、病気や薬の作用機序をよく理解した上での使用が必要であると指摘されています。
最近、SHIP1活性化因子AQX -1125という医薬品の有効性も検証されました。炎症反応に関する経路を調節する働きがあり、中等度〜重症の女性患者を対象とした第2相の試験では効果が認められたのですが、第3相の試験では、残念ながら効果は確認されませんでした。
第3の選択肢(膀胱内の物理治療)
カテーテルを用いて膀胱内に薬剤を注入する第3の選択肢では、デルマタン硫酸、コンドロイチン硫酸、へパラン硫酸、ケラタン硫酸、ヒアルロン酸などで構成される、膀胱尿路上皮のグリコサミノグリカン(GAG)層の修復を目的としています。治療薬には、FDAによって唯一承認されているジメチルスルホキシドをはじめ、ヘパリン、ペントサンポリ硫酸、コンドロイチン硫酸、ヒアルロン酸、リドカイン、リポソームなどがあります。膀胱の水圧拡張術とハンナ病変の電気凝固と組み合わせて、薬剤を注入することも少なくありません。
第4の選択肢(神経調節)
第4の選択肢として挙げられているのが、A型ボツリヌストキシンを使用した神経調節です。第1〜3の治療効果が得られなかった患者さんに限定された治療法となります。効果の持続時間が限られていますが、注射をくり返しても安全で効果的であるとされています。ボツリヌス毒素Aについても過去に取り上げたことがありますので、ここでは詳細は省略します。
リンク:間質性膀胱炎の新たな治療法──A型ボツリヌストキシンの膀胱注入療法と保険適用の課題
最後の選択肢(外科的アプローチ)
最後の選択肢とされているのが、生活の質に大きな影響を及ぼす手術です。手術には、膀胱形成術を伴う部分的三角上膀胱切除術、膀胱の切除を伴う場合もある尿路変更術などがあります。ハンナ病変や膀胱の容量の減少など、膀胱の異常が明らかな場合には高い改善率が認められているものの、手術を受けてからも痛みが残る患者さんも少なくないと報告されています。
このように間質性膀胱炎・膀胱痛症候群ではさまざまな治療が行われていますが、完治は難しいのが現状です。Simone Garzon氏らは、「間質性膀胱炎・膀胱痛症候群の違いを押さえた上で、病気のメカニズムのさらなる研究が求められる」と結論づけています。