見出し画像

自己多血小板血漿(PRP)療法と間質性膀胱炎 痛み・頻尿・尿中バイオマーカーが改善

間質性膀胱炎・膀胱痛症候群の治療法の一つとして注目されているのが、「自己多血小板血漿(PRP)療法」です。エビデンスはまだまだ不足しているという指摘もありますが、海外ではPRP療法の研究が進められています。今回の記事では、2020年に報告された最新の論文をもとに、PRP療法の現状を確認していきます。

濃縮した血小板を患部に注入

学術顧問の望月です。今回の記事では、間質性膀胱炎・膀胱痛症候群の最新の治療法をご紹介します。『Scientific Reports』という学術誌に2020年に投稿された「Repeated intravesical injections of platelet‑rich plasma improve symptoms and alter urinary functional proteins in patients with refractory interstitial cystitis」という論文をもとに、間質性膀胱炎に対する自己多血小板血漿(PRP)療法の有効性や問題点を見ていきたいと思います。

PRPとは「Platelet Rich Plasma」の略称で、血液を遠心分離にかけて得られる血漿濃縮物のことです。再生療法の一つであるPRP療法では、濃縮した血小板のみを患部に注入していきます。軟骨や靭帯など、損傷した組織の修復を促すことが治療の目的です。最近では、楽天イーグルスに今シーズンから復帰した元・ヤンキースの田中将大選手やエンゼルスの大谷翔平選手が、右肘の靱帯損傷の治療でPRP療法を受けたといわれています。

PRP療法は最近、美容やアンチエイジングなどの領域でも取り入れられることが増えています。そのほか、軟骨が磨耗して痛みが生じる変形性関節症などの新たな治療法としても注目されています。近年では、間質性膀胱炎・膀胱痛症候群に対する有効性を示す報告も見られるようになりました。今回ご紹介する論文は、その一つです。

論文投稿者のYuan‑Hong Jiang氏らは、間質性膀胱炎・膀胱痛症候群によって生じる膀胱組織の硬化(線維化)などに注目しています。膀胱が硬くなれば膀胱容量が低下して、膀胱痛や頻尿などの症状が悪化すると考えられています。間質性膀胱炎・膀胱痛症候群では、膀胱組織の弾力を取り戻すことが大切なのです。

血小板には、組織の形状を維持するのに必要な細胞外基質の成長因子を増やしたり、サイトカインや代謝にかかわる酵素の活性を調整するモジュレーターを放出したりする役割があり、炎症の抑制や組織再生を含む創傷の治癒を助ける働きなどが期待されています。先ほど挙げた変形性関節症では、関節軟骨にヒアルロン酸注射を打っても効果がなかった患者さんの症状が、PRP療法で改善したという報告などが増えています。それでは、間質性膀胱炎・膀胱痛症候群に対する効果を見ていきましょう。

自覚症状が改善して効果も持続

Yuan‑Hong Jiang氏らは、男性3人、女性37人、計40人(平均年齢55.5±11.1歳)を対象として試験を実施。ヒアルロン酸やボツリヌス毒素Aなど標準的な治療を受けたものの効果がなかった、または再燃が確認されている間質性膀胱炎の患者さんが試験には参加しています。なお、今回の試験ではハンナ病変を伴う患者さんは除外されています。試験に参加した患者さんには毎月4回、PRPの膀胱内注射を受けてもらいました。

試験では、患者さんが自覚する痛みの程度を示すVASスコア、間質性膀胱炎の症状指数(ICSI)・問題指数(IGPI)を含むOSSというスコア、機能的膀胱容量(FBC)、全般的改善を評価するグローバル応答評価 (GRA)、尿中バイオマーカーなどを確認。治療前と4回目の注射の後、注射を終えてから1ヵ月、2ヵ月、3ヵ月後に、データを取りまとめて有効性を評価しました。有効性については、GRAの2以上の改善、またはVASが0だった場合に治療成功、そのほかは治療失敗と判断されています。

治療の結果、最初のPRPの膀胱内注射の後からGRAは改善していき、効果は注射を終えてから3ヵ月後まで持続。成功率は、1回目のPRP注射後1か月で45%、4回目のPRP注射後1か月で70%、3か月で67.5%でした。

間質性膀胱炎・膀胱痛症候群などの患者さんに見られる尿路上皮透過性の増加を評価できるカリウム検査にも変化が見られています。成功した患者さんのうち、27人中20人でカリウム検査が陽性から陰性になりました。膀胱粘膜の修復を示唆する結果です。一方、失敗した患者さんを見ると13人中11人が陽性のままでした。そのほか、OSS、ICSI、IGPI、VAS、FBCのスコアの改善も認められ、頻尿・夜間頻尿といった症状とVASの改善には有意差が認められています。

膀胱環境の改善は、間質性膀胱炎に関連する尿中バイオマーカーの変化からも推察することができます。4回のPRPの膀胱内注射を受けた後、痛みに関与しているNGF(神経成長因子)、炎症反応を受けて増えるMMP -13(マトリックスメタロプロテイナーゼ-13)、血管新生に関与しているVEGF(血管内皮増殖因子)の尿中レベルは治療後に有意に減少。組織再生にかかわるPDGF-AB(血小板由来成長因子-AB)は有意に増加していたのです。

今回の試験では、PRPの膀胱内注射の安全性と有効性が示されたといえそうです。一方で、尿中NGFが改善したほかには、機能性たんぱく質やサイトカインの減少は認められていません。これは、慢性炎症が解決していないことを示唆しています。抗炎症効果の達成には、高濃度のPRPが必要なのかもしれません。実際、抹消血小板数の5〜7.5倍のPRP濃度が最良の治療効果を示すという報告があるのに対し、今回の試験ではPRPの平均濃度は2.5倍でした。適切な濃度の検証やメカニズムの解明など、さらなる研究の発展に期待したいところです。

いいなと思ったら応援しよう!