間質性膀胱炎とA型ボツリヌストキシン注射 長期治療の有効性と課題を確認
ボツリヌストキシンAの長期的な影響
学術顧問の望月です。今回の記事では、久しぶりに間質性膀胱炎・膀胱痛症候群の研究情報を取り上げます。ピックアップしたのは、『Toxins』に2022年に掲載された「Effect of Intratrigonal Botulinum Toxin in Patients with Bladder Pain Syndrome/Interstitial Cystitis: A Long-Term, Single-Center Study in Real-Life Conditions」という論文です。
間質性膀胱炎・膀胱痛症候群は、膀胱の痛みや尿意切迫感、夜間頻尿を含む頻尿などの症状が慢性的に続く炎症性疾患です。国内外で研究が進められているものの、病気を根本から治す治療法はいまのところ確立されていません。病気に関する情報のレクチャーをはじめ、食事やストレスとの向き合い方といったふだんの生活に関するアドバイスに基づく自己管理が治療の土台で、必要に応じて経口薬による治療や外科的治療が選択されているのが現状です。
今回取り上げるボツリヌストキシンAの膀胱内注射は、外科的治療の選択肢の一つとして採用されています。この治療法では、筋肉の収縮を弱める働きのあるボツリヌストキシンAを膀胱に直接注射して筋肉の異常収縮を抑えることで、尿意切迫感や頻尿を改善させる効果が得られます。
過去の研究において、保存的治療で効果の認められなかった患者さんの痛みの管理に、ボツリヌストキシンAの投与が有効かつ安全であることなどが報告されています。痛みの軽減が、昼夜の頻尿、最大機能膀胱容量、生活の質の改善などにも繋がっていくのです。
一方で、課題も指摘されています。1回の治療の持続時間は限定的で、膀胱注射を定期的にくり返す必要があるのです。短期間、あるいは数回のサイクルの注射で病状の有意な改善が認められているものの、患者さんの負担は軽視できるものではありません。また、膀胱内治療の長期的な効果と安全性に関する情報は不十分であるという指摘もあります。
著者らは過去の報告をもとに、ボツリヌストキシンA治療の長期的な影響を検証しています。間質性膀胱炎・膀胱痛症候群の患者さんを対象とする、これまでにない切り口の研究で、2009〜2022年にボツリヌストキシンA治療を受けたことのある47人の女性のデータを追跡調査。さらに、予後予測因子を探るために、患者さんは3つのグループに整理されました。いずれの患者さんも、使用した薬剤の種類と投与量、治療の手順は同じとなっています。
間質性膀胱炎・膀胱痛症候群患者におけるボツリヌストキシンA治療は効果的で安全な長期治療の選択肢
47人の患者さんはボツリヌストキシンA治療を少なくとも1回は受けており、治療を4回以上くり返した人の割合は48%でした。また、グループA、すなわち現在もボツリヌストキシンA治療を継続的に受けている患者数が25名(53%)、現在は治療を受けていないグループBが17名(36%)、グループCが5名(11%)であり、ボツリヌストキシンA治療が長期に継続して治療しても効果が続く治療法であることが確認されました。
さらに研究では、ボツリヌストキシンA治療が成功するための予測因子を探るために、長期的治療が成功したグループAと不成功のグループBの治療時の年齢、初期疼痛強度、全体的な治療期間、および最初の治療期間などを比較調査しました。
結論を先にご紹介すると、評価されたいずれの項目も治療効果を予測する独立した因子にはなりませんでした。副作用については軽度の尿路感染症といきみが少数で見られています。
そのほか、薬剤耐性についても考察されていました。膀胱以外の領域でボツリヌストキシンAを使用すると抗体が発生して毒素に対する耐性がまれに見られるという報告があるのですが、間質性膀胱炎・膀胱痛症候群での膀胱内注射については長期間の投与でもその心配はなく、効果が持続していくとのことです。しかし、治療でポジティブな結果が得られていたグループAの患者さんの多くも、その後の長期治療を放棄しているそうです。患者さんにかかる負担が小さくないことを意味しています。
いずれにしても、半数以上に効果が認められているボツリヌストキシンA治療は、効果的で安全な⻑期治療の選択肢であると結論づけられています。著者らも言及していますが、今回の分析では患者数が少ないという難しさもあったようです。今後、ボツリヌストキシンAとそのほかの薬剤の組み合わせに限らず、患者さんの負担がより小さい治療法が確立されることを期待したいです。
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