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ケルセチンがガンの発生・進行を抑制 165の研究結果をもとに抗ガン作用をレビュー

キレート活性による抗酸化作用と活性酸素の消去作用、免疫細胞の調節作用のあるケルセチンは、ガン治療の分野でも国内外で研究が続けられています。今回のレビューでは、世界的に発生率の高い乳ガン・大腸ガン・肝臓ガンを対象として、腫瘍の発生・促進・進行に関わる受容体・酵素・転写因子などに与えるケルセチンの効果を検証。ガンの発生・進行に対する効果はもちろんのこと、体への負担を軽くしながら治療効果を高めるケルセチンの可能性が整理されています。

ガンの発生・進行に関わるたんぱく質との関係

学術顧問の望月です。前回に続いて、今回の記事でもケルセチンの機能性研究の情報をご紹介します。ピックアップしたのは、2023年に『Int. J. Mol. Sci.』に掲載された「Targets Involved in the Anti-Cancer Activity of Quercetin in Breast, Colorectal and Liver Neoplasms」です。このレビューでは、世界的に発生率の高い乳ガン・大腸ガン・肝臓ガンに対するケルセチンの効果が整理されています。

フラボノイドは、ガンの予防・改善に有効です。フラボノイドの一つであるケルセチンは、アポトーシスの制御やガンの遊走・増殖を阻害することが明らかになっています。遊走とはガン細胞が生体内のある場所から別の場所に移動することで、増殖は文字どおり、細胞のエラーによって発生したガン細胞が増えていくことです。さらに、ケルセチンには各種抗ガン剤の効果を高める働きもあります。これは、薬の量を減らして患者さんの負担を軽減できることも意味します。

ガンに対するケルセチンの機能性の中心としてレビューで挙げられているのが、キレート活性による抗酸化作用と活性酸素の消去作用です。そのほか、ケルセチンには免疫細胞の調節を介してケモカインとサイトカインの両方を阻害する働きもあります。作用機序の詳細は割愛しますが、これらの働きがガン細胞の増殖・転移の抑制につながっているのです。

実際にレビューでは、乳ガン・大腸ガン・肝臓ガンを対象とする研究情報を収集。ガンの発生・促進・進行に関わる受容体・酵素・転写因子といったたんぱく質に与えるケルセチンの働きが検証されています。本文では165もの研究結果が引用されているため、今回の記事ではそれぞれの一部を簡単にご紹介していきます。

第一治療薬との組み合わせで効果アップ

■乳ガン
これまでに報告されてきた研究では、ケルセチンはガン細胞の発生・増殖に関わる以下の経路に影響を及ぼすことが明らかになっています。基礎研究では、特定の細胞周期におけるガン細胞の増殖を停止させる抗増殖効果があり、効果は濃度依存的に増していくこと、さらに抗転移特性があることなどが確認されています。

乳ガンに対するケルセチンの効果

実践的な治療への応用を見据えて、抗ガン剤との併用に関する情報も整理されています。細胞実験では、第一治療薬であるドセタキセルとケルセチンの併用による相乗効果が認められています。さらに、EMT6腫瘍異種移植マウスモデルに対してケルセチンとシスプラチンを同時に投与する実験では、腫瘍体積の縮小やシスプラチン媒介乳房細胞傷害効果において、治療効果はシスプラチン単独投与よりもケルセチンを併用するほうが高いことが報告されています。

■大腸ガン
結腸ガン・直腸ガンに対するケルセチンの抗腫瘍効果は、30年以上研究されてきた歴史があります。これまでの研究で、ガン細胞の発生・増殖に関わる以下の経路にケルセチンが関与していることがわかっています。

大腸ガンに対するケルセチンの効果

治療との併用を検証する実験では乳ガン同様、抗ガン剤とケルセチンの同時使用で効果が上がることがわかっています。5-FUという抗ガン剤に耐性のあるHCT-15細胞株を用いた実験では、ケルセチンによってアポトーシス率を高められることが確認されたのです。また、DLD-1細胞株を用いた実験では、放射線療法とケルセチンの同時治療によって、生存するガン細胞が減少することがわかりました。同じ結果は、DLD-1腫瘍異種移植マウスモデルでも確認されています。

■肝臓ガン
肝細胞ガンを対象とする研究では、ケルセチンが以下の経路に影響を及ぼすことが報告されています。分子標的薬の一つであるソラフェニブとケルセチンの併用効果を確認した実験では、HepG2およびHep3B細胞株の増殖の50%阻害に必要なソラフェニブの濃度が単独投与よりも低くて済むことが確認されました。

肝臓ガンに対するケルセチンの効果

マウスモデルを用いた実験では、非ステロイド性消炎鎮痛薬で抗ガン作用もあるセレコキシブとケルセチンの組み合わせがガン細胞の増殖抑制とアポトーシス誘導の効果を高め、5-FUとの同時使用によるメリットも大きいことが証明されています。具体的には、腫瘍体積の減少につながることがわかっているのです。

レビューから、乳ガン・大腸ガン・肝臓ガンの研究の一部をご紹介してきましたが、ガン治療に応用する場合、ケルセチンをいかに安定的に標的細胞へ届けるかが課題の一つとなります。本文では、それぞれのガンを対象とするケルセチンの送達システムの研究および治療効果についても整理されています。具体的には抗ガン剤とケルセチンをマイクロカプセルに注入するナノ粒子の活用などが該当し、それぞれのメリットがまとめられています。

結論となりますが、ケルセチンはガンの発生・促進・進行に関わる受容体、酵素、転写因子などを標的として、さまざまな段階で腫瘍形成に対抗する働きを持っていることが明らかになりつつあります。さらに、化学療法の薬剤の量を減らせる可能性があることも示唆されているのです。量や濃度、そして効果など、ガン治療に対するケルセチンの役割を明確に定義していくためには、より複雑なモデルを用いたさらなる研究が必要になるということを、最後に補足しておきます。

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