神経障害に対するアスタキサンチンの保護効果 血液脳関門を通過する性質に注目
抗酸化作用・抗炎症作用を持つアスタキサンチン
学術顧問の望月です。今回の記事では、2022年に『Mol Med Rep』という学術誌に掲載された「Biological and neurological activities of astaxanthin(Review)」をご紹介します。アスタニンの主原料の一つであるアスタキサンチンの神経保護効果が紹介されています。
天然の赤い色素成分であるアスタキサンチンは、カロテノイド類の一つです。キサントフィル類とカロテン類に分けられるカロテノイド類のうち、アスタキサンチンはキサントフィル類に分類されています。ほかのキサントフィル類には、ゼアキサンチンやカンタキサンチン、ルテインやβ-クリプトキサンチンなどが、カロテン類にはβ-カロテンやリコピンなどが挙げられます。
アスタキサンチンは、カロテノイド類の中でも最も優れた機能性成分の一つです。アスタキサンチンの代表的な機能性として、抗酸化作用、抗炎症作用、抗アポトーシス作用が広く知られています。今回のレビューでは、多岐に渡るアスタキサンチンの健康効果のうち神経保護効果に注目しています。
人体で重要なシステムの一つであるのが、中枢神経系の働きです。脳と脊髄からなる中枢神経系には、数十億の神経細胞とグリア細胞が含まれています。中枢神経系をほかのシステムと切り離し、神経細胞に必要な物質を供給しているのが血液脳関門です。血液脳関門は、必要な物質を届けるほかにも有害物質の侵入を防ぐ障壁の役割を担っています。
血液脳関門を通過するアスタキサンチン
血液脳関門は中枢神経系の恒常性を維持する上で必要不可欠なものですが、神経細胞の治療が必要となったときに薬剤の輸送を妨げる場合があります。血液脳関門を通過できない薬剤があるのに対し、脂溶性の色素成分であるアスタキサンチンは神経細胞まで運ばれることがわかっています。ラットの脳の海馬と大脳皮質にアスタキサンチンが蓄積することを発見したのは、日本の研究者です。
専門的な話になりますが、過去のいくつかの研究ではアスタキサンチンが神経細胞の再生を促進して、グリア線維性酸性たんぱく質(GFAP)、微小管関連たんぱく質2(MAP -2)、脳由来神経栄養因子(BDNF)および増殖関連たんぱく質43(GAP -43)といった脳機能の維持・改善に関わる重要なたんぱく質の発現を増加させることが報告されています。
それぞれのたんぱく質の働きを簡単に説明しておきましょう。GFAPは、損傷した中枢神経系の修復、細胞間の情報伝達の促進、血液脳関門の損傷の緩和において重要な役割を果たしています。MAP-2 は、微小管の成⻑と神経細胞の再生に不可欠です。BDNFは、ニューロンの分化や成⻑に関わっています。GAP-43は、アップレギュレーションによってプロテインキナーゼという経路を刺激して神経突起の形成や再生を促進することがわかっています。
これらのたんぱく質が増加する背景には、アスタキサンチンの抗酸化作用、抗炎症作用、抗アポトーシス作用が関与しています。具体的な研究として、レビューではアルツハイマー病、パーキンソン病、虚血性脳卒中、くも膜下出血、筋萎縮性側索硬化症が改善するメカニズムなどが紹介されています。
一例となりますが、アルツハイマー病に対するアスタキサンチンの研究情報をご紹介します。アルツハイマー病は、アミロイドβやタウといった悪玉のたんぱく質が脳に蓄積することで物忘れなどの症状が起こる病気です。これらのたんぱく質は、酸化・炎症の悪循環を引き起こします。その結果、神経細胞がダメージを受けると考えられているのです。
日本で実施された研究では、アスタキサンチンが脳における抗酸化酵素を増加させることや、脳の酸化指数を低下させること、さらに認知機能を改善させることが報告されました。また、ほかの研究グループからは、アスタキサンチンによってTNF-αという炎症メディエーターのレベルが下がってアミロイドβも減少することが報告されているのです。
レビューでは神経障害に関するさまざまな研究が紹介されていますが、人間を対象とした研究がまだまだ少ないことを課題として挙げています。アスタキサンチンのシグナル伝達経路や治療効果を明らかにしていくために、今後も試験管や生体内での研究を重ねた上で、治療を想定した臨床試験が進められることが期待されています。
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