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アスタキサンチンの脳研究情報レビュー 認知機能改善・神経変性の遅延可能性が明らかに

アスタキサンチンには、強力な抗酸化作用・抗炎症作用があります。アスタキサンチンの抗酸化作用・抗炎症作用は、脳の健康維持にもプラスの影響を与えます。今回ご紹介するレビューでは、認知機能や神経変性疾患に対するアスタキサンチンの影響が検証されています。セサミン、ビタミンEなどとの組み合わせによる相加効果・相乗効果なども明らかになりつつあるようです。

アスタキサンチンと認知機能

学術顧問の望月です。前回の記事では、ニンニクを発酵・熟成させた黒ニンニクの抗ガン効果を確認していきました。今回の記事では、久しぶりにアスタキサンチンの研究情報をご紹介していきます。ピックアップしたのは、2024年に『Nutrients』に掲載された「The Effects of Astaxanthin on Cognitive Function and Neurodegeneration in Humans: A Critical Review」というレビューです。

これまでの記事でも解説してきたとおり、アスタキサンチンは強力な抗酸化作用・抗炎症作用を持つ機能性成分として知られています。目、皮膚、血管・血液、ガンなど、多岐にわたる分野においてアスタキサンチンの効能効果が研究されてきました。本レビューでは、脳に対する効果や今後の課題を整理しています。

脳の領域におけるアスタキサンチン研究は、①認知機能、②神経学的保護および神経変性疾患の予防の二つに大きく分けられます。認知機能については、視覚的および言語的刺激といったエピソード記憶、作業記憶(短期記憶)、処理速度、反応抑制、認知的変化、注意力などが該当します。後者は文字どおり、神経の保護効果に関するものです。アルツハイマー病やパーキンソン病などは神経変性疾患に該当します。

レビューで取り上げられているアスタキサンチンの研究を、いくつかご紹介していきましょう。著者らは、報告されてきた先行研究のほか、現状の問題や今後の課題を指摘しています。

■認知機能
認知機能への影響を調査した研究では、アスタキサンチンを1日8 mg飲むグループとプラセボを1日8 mg飲むグループに分け、試験参加者の8週間後の認知機能を分析しています。結果、2群間に統計的な有意差はなかったものの、55歳未満と55歳以上のサブグループ間のデータを分析したところ、5分後に思い出した単語を数える単語記憶テストの結果において、55歳未満のアスタキサンチン摂取群で有意な改善が認められています。

また、96人の高齢者を対象とした二重盲検プラセボ対照試験(アスタキサンチン6あるいは12 mg/day摂取、4・8・12週間後の認知機能を分析)では、コンピューターを使用して認知機能を評価するグロトン迷路学習テストにおいて、12 mg/day、8週間以上のアスタキサンチン摂取群の結果が改善していることがわかりました。ただし、この試験については、摂取期間が長くなるにつれプラセボ群においてもスコア改善が見られたため、グループ間では有意差は認められていません。

過去に実施されたほかの研究でも、認知、記憶、注意、情報処理への影響など、アスタキサンチンの有効性を示唆する結果が複数報告されています。認知機能の低下には、加齢のほか、高血圧や肥満などさまざまな要素が影響を与えているため、著者らは、認知機能に影響を与える外部変数を組み込んだ研究の重要性や、参加者を拡大した規模の大きな研究が必要であると提言しています。

アスタキサンチンと神経変性疾患

■神経変性の予防
アスタキサンチンは、神経変性の予防、神経の保護にも有益であると報告されてきました。アスタキサンチンは、活性酸素の増加を引き起こす酸化ストレスのメカニズムに影響を与えて、神経細胞のアポトーシスにプラスの効果をもたらします。例えば、認知機能に悪影響を及ぼす内因性抗酸化酵素であるカタラーゼとスーパーオキシドジスムターゼの減少を抑制する働きがアスタキサンチンにはあるのです。

■アルツハイマー
認知症の一つであるアルツハイマー病には、ニューロンの質の低下と量の減少、炎症メディエーターの増加、アセチルコリンの減少などが関わっています。30人の高齢者を対象とした試験では、アスタキサンチンがアルツハイマー病など特定の認知症を予防できる可能性が示されています。

アスタキサンチン低容量グループ(1日6mg)、アスタキサンチン高容量グループ(1日12mg)、プラセボグループの3群を比較したところ、アスタキサンチンの高容量グループにおいてリン脂質ヒドロペルオキシドの減少が認められたのです。アルツハイマー病の人は、リン脂質ヒドロペルオキシドが多いことがわかっています。著者らは、アルツハイマー病の患者さんを対象とした大規模な試験を行うことで、アルツハイマーに対するアスタキサンチンの効果をより深く理解できるとしています。

■パーキンソン病
パーキンソン病は、原因不明の神経変性疾患で、脳の感受性の高い領域に影響を及ぼします。環境要因と遺伝的要因が関係しており、進行性のニューロンの変性を引き起こします。アスタキサンチンは、パーキンソン病の進行に関わる細胞のアポトーシスの抑制に有効です。これまでの研究では、小胞体ストレスを抑制する効果、パーキンソン病で特異的に発生するニューロン損傷を保護する効果があると報告されています。

レビューでは、より実践的でユニークな研究も紹介されています。サプリメントを利用する場合、機能性成分の組み合わせによる相加効果、相乗効果が期待される場合があります。セサミン、ビタミンEの一種であるトコトリエノールとアスタキサンチンを組み合わせると、認知機能や神経変性疾患の症状に対する改善効果が増すそうです。ただし、この場合に各成分単独の効果を明確にするのが困難となります。

アスタキサンチンの効能効果を支持する研究結果は数多く報告されていますが、著者の指摘にもあるとおり、より信頼性の高い結果を得るために、異なる集団を対象としたより規模の大きい研究が必要になるといえそうです。

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