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間質性膀胱炎の原因解明に向けて 自己免疫疾患の可能性を探るモノクローナル抗体療法

間質性膀胱炎は、病因のすべてがいまだに解明されていない難病です。間質性膀胱炎の原因には、いくつかの仮説が挙げられています。「間質性膀胱炎は自己免疫疾患である」というのも、その一つです。現在、間質性膀胱炎に対する「モノクローナル抗体療法」という治療の効果や安全性を検証する研究が進められています。治療効果のある特定の抗体を見出すことができれば、間質性膀胱炎のメカニズムも見えてくるかもしれません。

自己免疫疾患と間質性膀胱炎

学術顧問の望月です。前回の記事は、間質性膀胱炎の治療の副作用に関するレビューをご紹介しました。今回は、2022年に『Biologics』に投稿された「Monoclonal Antibody Therapy for the Treatment of Interstitial Cystitis」をご紹介します。このレビューでは、間質性膀胱炎は自己免疫疾患の一つであると捉えて、人工的な抗体によって特定の目印を持つ抗原の排除を試みる「モノクローナル抗体療法」の研究情報が整理されています。

間質性膀胱炎の治療法は、これまでの記事でもたびたび取り上げてきました。病因が完全には解明されていないこともあり、病気の根本的な原因を取り除くのは困難で、痛みや頻尿、不安感や抑うつ状態など、さまざま症状の改善を試みているというのが、現在の間質性膀胱炎の治療の実態です。

一方で、間質性膀胱炎の原因究明に向けた研究も一歩ずつ前進しています。注目されている一つが、「間質性膀胱炎は自己免疫疾患である」という仮説に基づく研究です。間質性膀胱炎の膀胱粘膜下組織には、リンパ球(CD4 + T)、肥満細胞、白血球(好酸球)などの浸潤が見られます。同様に、尿路下部における肥満細胞の存在も明らかになっています。これらは、免疫反応が間質性膀胱炎の病態に関連していることを示しています。

免疫反応の背景には、異物である抗原の存在があります。ある研究者は、ヘルパーT細胞のバランスが間質性膀胱炎の病状に関わっている可能性を報告しており、Th2が優位な状態であるアトピー性皮膚炎の患者さんと同じように、間質性膀胱炎の患者さんの血清にも自己抗原が見られることを報告しています。自分の細胞を攻撃対象として認識しているということです。そのほか、抗ムスカリンM3という受容体に対するIgG自己抗体は、自己免疫疾患として知られるシェーグレン症候群と間質性膀胱炎の両方に関係していることも明らかになってきました。

それでは、レビューのテーマである「モノクローナル抗体療法」の話に入りましょう。モノクローナル抗体とは、異物である抗原が持つ抗原決定基という複数の目印のうち、特定の1種類にのみ結合するように人工的に作られた抗体のことです。B細胞という免疫細胞から産生される抗体は、特定の抗原を認識する性質を持っています。その性質を利用して開発されたのが、モノクローナル抗体というわけです。

特定の抗原決定基に対する抗体があれば、病気の原因だけを免疫細胞の働きによって排除することができます。間質性膀胱炎においては、抗TNF-α剤、抗NGF剤をモノクローナル抗体として使用する研究が進められています。TNF-αは、これまでの記事でもふれてきた炎症性サイトカインのことで、神経成⻑因子と呼ばれるNGFは、炎症による痛みのメディエーターとしても機能するたんぱく質のことです。

決め手はないものの今後の研究に期待

抗TNF-α剤のアダリムマブとセルトリズマブペゴル、抗NGF剤のタネズマブとフラヌマブの臨床試験の結果を、簡単にご紹介していきたいと思います。

抗TNF-α剤であるアダリムマブは、ヒトTNF-αの中和を介して作用する完全ヒト組換えモノクローナル抗体であり、乾癬性関節炎、クローン病、関節リウマチ、若年性特発性関節炎、強直性脊椎炎、尋常性乾癬、潰瘍性大腸炎といった自己免疫疾患の治療薬としてFDAに承認されているモノクローナル抗体です。

間質性膀胱炎の患者さんを対象とする二重盲検の試験では症状の改善が認められたものの、プラセボ効果によって得られた結果であると評価されています。治療のサポートや治療中のアドバイスが病状の改善につながる可能性を示唆する結果でもあります。

セルトリズマブペゴルは、ヒトTNF-αに特異的な組換え型のポリエチレングリコール(PEG)化抗体Fab'フラグメントであり、PEGを結合させた結果として血中半減期が増加した抗TNF-α剤です。臨床試験では、治療から18週目の時点で間質性膀胱炎の有意な改善が認められています。間質性膀胱炎に対する薬物療法の有効性と安全性を評価するメタアナリシスという分析でも、プラセボより優れた治療効果を示しました。しかし、異なる条件で実施された過去の試験で有効性が証明されなかったことなどもあり、さらなる調査が必要であるという評価になっています。

ヒト化抗NGFモノクローナル抗体のタネズマブの臨床試験では、痛みなどの症状は改善したものの、頻尿や排尿量の変化は認められませんでした。メタアナリシスによって過去の研究データを総合的に評価した結果、追加の研究が必要であるが、タネズマブは間質性膀胱炎の有望な治療法になりうると結論されています。

フラヌマブは、完全ヒト組換えモノクローナル抗体(IgG)であり、強力な抗NGFモノクローナル抗体として知られています。ほかのモノクローナル抗体と同様、間質性膀胱炎に対する臨床試験が実施されましたが、終了をまたずに中止されることになりました。関節軟骨や骨がもろくなるという副作用が確認されたからです。

結論となりますが、間質性膀胱炎の治療の決め手となるモノクローナル抗体は、いまのところは確認されていません。今度、さらなる研究が進められていくことが期待されています。モノクローナル抗体療法の研究が前進すれば、自己免疫に基づく病態生理学的メカニズムもより明らかになっていくものと思われます。

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