ニンニクの有効成分“S-アリルシステイン”の健康効果 機能性研究を整理したレビューをご紹介
黒ニンニクに多いS-アリルシステイン
学術顧問の望月です。今年は、3年ぶりに行動制限のない夏休みとなりました。皆さまは、いかがお過ごしだったでしょうか。残念ながら私はどこへも行かず、仕事で忙しかったこともあり、ジャングルになってしまった畑や庭の草取りや庭木の剪定などに明け暮れていました。
さて、3週間ぶりの記事の更新となります。今回は、2022年の『Compr Rev Food Sci Food』から、「S-Allyl cysteine in garlic (Allium sativum): Formation, biofunction, and resistance to food processing for value-added product development」を見ていきます。このレビューでは、不二バイオファームで製造しているアスタニンの含有成分の一つである「S-アリルシステイン」の情報が整理されています。
S-アリルシステイン(SAC)は、ニンニクに特徴的な香りや生理活性をもたらしている有機硫黄化合物です。ニンニクの有機硫黄化合物にはSACのほか、アリイン(サリルシステインスルホキシド)、S-メチルシステイン(SMC)、S-エチルシステインなどが挙げられます。
ニンニクの中でもSACを最も多く含むのは、生のニンニクを熟成させた黒ニンニクです。レビューでは、生ニンニクのS-アリルシステイン含有量は1gあたり19.0〜1736.3μgであるのに対し、冷凍・解凍ニンニク、ニンニク漬け、発酵ニンニクエキス、黒ニンニクなどの加工食品では含有量が大幅に増加することが紹介されています。
最近の研究では、加熱、超音波、凍結、発酵、高圧処理といった加工・製造法のほか、品種や栽培環境などによってSAC含有量が大きく変化することもわかってきています。生産・加工・保存といった各プロセスの最適化は、SACによる健康効果を狙った商品を展開する上でとても重要な情報となります。
健康効果のベースは抗酸化・抗炎症作用
ここからは、SACの健康効果を見ていきます。レビューでは、過去に報告された論文を引用する形で、抗酸化作用、抗炎症作用、抗肥満作用、肝臓保護作用、心臓保護作用、抗アポトーシス活性、神経保護作用などの機能性が、小見出しをつけて整理されていました。これらはSACの機能性の一部です。
今回の記事では、抗酸化作用と抗炎症作用などのSACの基本的な薬理作用をご理解いただくとともに、その薬理作用に基づく各臓器に対する保護効果について、引用元の論文内容を簡単にご紹介していきます。
●抗酸化作用
これまでの記事でもご紹介してきたとおり、肥満や糖尿病、ガンやアルツハイマー病には酸化ストレスが関与しています。SACは、さまざまな疾患の予防・改善に有効である可能性が示唆されています。活性酸素種に対するSACの抗酸化作用の関与が明らかになりつつあるのです。
SACは、活性酸素種から生体を防御するスーパーオキシドアニオン、過酸化水素、ヒドロキシルラジカル、ペルオキシナイトライトアニオンの働きにプラスの影響を与えています。また、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸やキサンチンオキシダーゼ、一酸化窒素合成酵素やシクロオキシゲナーゼなどの酸化促進酵素の産生を阻害することもわかっています。
ちなみに、ニンニク、黒ニンニクおよびアスタニンの原料である滅菌ニンニクスプラウト(GSP)について、上記活性酸素に対する除去作用を比較したところ、以下の結果が得られ、すべての活性酸素種に対してGSPが黒ニンニク以上に強力な抗酸化作用を発揮できることがわかりました。
●抗炎症作用
慢性炎症の抑制も、各種疾患の予防・改善には不可欠です。いくつかの研究では、SACを含む黒ニンニクが効果的な抗炎症剤となりうる可能性が示唆されています。黒ニンニク抽出物は、MAPKとNF-κBといった炎症反応に関与しているシグナルを介して、一酸化窒素と炎症誘発性サイトカインの生成を抑制することが明らかになっています。
炎症反応を抑制するシグナル伝達の経路の詳細についても明らかになりつつあります。黒ニンニク中のSACの抗炎症作用のメカニズムには、TLR4の活性化の阻害、TLR4の阻害によるNF-κBシグナル伝達の調整、ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体γの発現増加によるNF-κBの核移行の阻害などが挙げられています。
●心臓・神経保護および抗糖尿病作用
Padmanabhan & Prince, 2006は、心筋梗塞モデルラットで減少した心臓のスーパーオキシドジスムターゼ、カタラーゼ、グルタチオンペルオキシダーゼ、グルタチオンレダクターゼなどのマーカー酵素の活性が、SACを毎日45日間経口投与すると有意に増加し、脂質過酸化生成物が減少し、抗酸化物質の活性が増加することにより、抗酸化状態が改善され、SACの保護効果が確認できたと報告しています。また、Avula et al., 2014も同様に、モデルラットにおいて、SACの心臓保護効果を確認しています。
Tsai et al., 2011は、d-ガラクトース (DG)で 処理された老化モデルマウスにおけるSACの神経保護効果を報告しています。
老化モデルマウスは、Aβ1-40およびAβ1-42(これらはアルツハイマー病患者の脳に見られるアミロイド斑の一種)の形成を増加させ、β-アミロイド前駆体タンパク質 (APP) および β-site APP切断酵素1(BACE1)のmRNA発現を増加させました。SACの摂取により、Aβ1-40 およびAβ1-42が有意に減少し、APPおよびBACE1の発現が抑制され、さらに活性酸素種およびタンパク質カルボニルの形成が低下し、脳の抗酸化状態も回復したとしています。
これらの知見により、抗Aβ、抗糖化および抗酸化効果を介して、SACがアルツハイマー病などの神経変性疾患の進行を抑制する可能性があると結論付けています。
Lembede et al., 2018は、高フルクトース(FS)食を与えられたヒト新生児をモデル化した乳幼児ラットに高FS食を与えた場合の SAC の潜在的な予防効果を検討しました。4日齢の雄(n=32) および雌(n=32) の Wistar ラットを無作為に割り当て、15日間毎日SACを経口投与し、血糖値、トリグリセリド、コレステロール、血漿レプチンおよびインスリン濃度などが測定されました。
SACは、インスリン抵抗性に関する血漿インスリン濃度とホメオスタシスモデルの評価を有意に増加させました。本研究で得られた結果により、著者らは、SACが抗糖尿病薬およびインスリン分泌促進薬として利用できる可能性があることを示唆しています。
抗酸化・抗炎症作用のメカニズムは専門的で難しい話になってしまいましたが、SACについては、これまで抗酸化・抗炎症作用を介して、多くの臓器に対する保護作用が研究・報告されていることをご理解いただけたものと思います。SACに対する注目度は年々高くなっており、今後もSACに関連した研究が数多く報告されると思います。私たちとしては、継続的に文献調査を行い、それから得られた新たな知見を踏まえ、商品の改良や新商品の開発につなげていきたいと考えています。
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