薄幸の美少女を愛でようの会
ここに3人の美少女がおるじゃろ。
まず1人目は幼馴染ツンデレポニーテールで毎朝家まで起こしに来てくれる女の子じゃ。
やたらと悪態をつく嫌な奴じゃが、どうやら彼女のファンクラブもあるようじゃ。
もう高校生なのだから起こしに来なくてもいいと何度も伝えているんじゃが…。
何やら「昔の約束を覚えているか」とやたらと確認するが、流石に子供の頃すぎて覚えてないのぉ。
次に、ドジっ娘ピンク髪じゃ。
この子はやたらと丸くて大きなメガネをして何もないところでよく転ぶ運動神経のあまりよくない子じゃが、ずっと君の味方でいてくれるぞ。なぜかメイド服をよく着させられるんじゃ。恥ずかしがっておるがとてもよく似合っておるぞ。
最後に薄幸の美少女じゃ。放課後の図書室で本を読んでいると、同じように毎日図書室で本を読んでいる女の子がいることに気がついた。いつも窓際に座る彼女の顔は夕暮れが逆行してよく見えなかったが、人知れず仲間意識を持っていた。ある朝、朝礼で倒れた女の子がいた。図書室でよく見かける彼女だった。俺は彼女が隣のクラスであることに初めて気づく。運ばれていく彼女を目で追っていると、一瞬目があったような気がした。
その日も、いつものように放課後の図書室で本を読んでいた。最終下校のチャイムが鳴り響く。あたりはすっかり暗くなっていた。帰ろうとして本を閉じ目線を上にあげると、何故か彼女が俺の横に立っていた。そのまま流れるようにして一緒に家に帰った。特に会話はないが、なんとなく居心地が良かった。
次の日から、彼女は俺の隣に座るようになった。
それが何故なのか俺にはわからない。ただ咎める必要もない。俺たちはいつものように本を読んでいた。
その日から、放課後は隣同士で本を読み、共に帰る生活が始まった。
数日間、この生活を続けていて、いくつか彼女についての発見があった。まず、彼女はSFが好きだということだ。今はちょうどロバート・A・ハインラインの夏への扉を読んでいる。昨日は確かオルダス・ハクスリーの素晴らしい新世界を読んでいたはずだ。
次に、彼女は読むのがとにかく速い。夏への扉も、今日、本棚から取り出し、読みはじめたはずだが、もう中盤まで来ている。
そして、彼女は何も話さない。いつもただ隣に来て、ただ本を読んで、読み終われば静かに待っている。こちらを見ることもせず、ただ時計を眺め、俺が立ち上がると同時に立ち上がる。まるでそこにいないように感じる。ふと気になり横目に彼女をみると、確かにいた。もう読み終わったようでまた静かに時計を眺めていた。野球部の掛け声だけがこだまする。
最終下校のチャイムがなった。俺は途中まで読んでいた芥川龍之介の歯車を鞄へ仕舞い、立ち上がった。まるでそれが当然のことかのように彼女も立ち上がり、俺の横に並んで帰路に着く。
残暑はまだ続くが、夜はだいぶ涼しくなってきた。そろそろ鈴虫が鳴き出す頃だろうか。朧げな月明かりに照らされた、アスファルトの裂け目から雑草が生えている田舎道を彼女と歩いている。周りに人はおらず、沈黙だけが二人を包む。
「あっ」
聴き慣れない声がした。一瞬誰の声かわからなかったが、状況的に彼女の声なのだろう。か細く、透き通るような綺麗な声だった。
彼女は真っ直ぐ草陰に向かう。何事かと思いついていくと、黒猫がこちらを見ていた。
しゃがんで猫と目を合わす彼女の姿を俺はただ見ていた。もう一つ新しい発見をした。彼女は猫が好きなようだ。