昨日、仕事で後ろの席のオペレーターが長いこと話をしていた。どうもクレームを受けているようだった。かれこれ30分は経過しているのだが、電話を切れそうな気配がないので、「上席から電話させますと言って電話を切りましょう」とメモを入れた。聞けば、言っていることは理不尽極まりなく、できないことをやれというしつこさだったという。早速、わたしが電話する。年齢はわたしよりも年上。いわゆる団塊の世代だった。
話は変わるが、2008年問題という言葉をご存知だろうか。
厚労省の人口統計資料集(2021)によると、1948年が出生数の一番多い年である。そして、2008年は、その人たちが満60歳を迎える。会社員として働いてきた人たち、いわゆる団塊の世代がこぞって、定年退職を迎える年である。団塊の世代の人たちが働いてきた日本は高度経済成長期。この時代は終身雇用制、年功序列で組織が形成されていた。高度経済成長期に合わせて組織が拡大していく。組織が大きくなれば管理者としてのポストも多くなる。そこそこ仕事ができればどんどん出世していた時代だ。その人達が一斉に定年退職するのである。
https://www.ipss.go.jp/syoushika/tohkei/Popular/P_Detail2021.asp?fname=T04-01.htm
わたしがコールセンター関連部門に配属されたのが2007年。その時の研修の一環で受けた社外の苦情対応講座の講師が言っていた言葉が2008年問題だった。何が問題なのか。出世を果たした人たちがこぞって定年退職する。会社で役職に就いていた人たちが自分の居場所を失うということだ。今までは入れ替わり立ち替わり、会社が自分の部下をあてがってくれていた。今まで言うことを聞いてきた部下達にとっては、定年退職した上司はただの人である。自分が仕事している期間、徳を積み、慕われていた人であれば、退職後も交流があるかもしれない。しかし、我が物顔で部下をリスペクトすることもなく、過ごしてきた役職者だった場合、そういうこともなくなるだろう。日がな一日、自分の家にいる。今まで働きに出ていた自分の夫が家にいる。奥さんにとっても自由に過ごしていた家にずっといる夫に嫌気がさすかもしれない。そんな人たちが自分の意見を言う場としてコールセンターが選ばれるというのだ。それが2008年問題だと言っていた。
今回、わたしが対応したお客様は、そのようなタイプの人だったような気がする。「改善状況を報告しろ」という。改善状況などというものは、企業機密事項であり、一般のお客様に開示できるようなものではない。一通りの説明の中で納得していただき、最後は雑談のような会話になり電話を切った。電話を切ってから、この人には、普段の生活で、自分の意見や愚痴を聞いてくれる場があるのだろうか、もしかしたら、話す相手がいないのかもしれないと想像を巡らせた。
自分の話を聞いてくれる人やそういう場所を人生において、作っておくというのはとても大事なことだ。
わたしの母は亡くなってから久しいが、父が亡くなり一人暮らしをする母に「わたしのところに来ないか」と言ってみたことがあった。母は、「この家から離れるつもりはないよ、くらしは楽になるかもしれないけれど、友達がいなくなってしまう」と言っていた。だから、母は亡くなるまでずっと一人暮らしだった。ある年の暮れ、いつもおしゃべりに興じていた友達が亡くなった。友達が亡くなると同時に寂しそうにしていた母。それでも元気に過ごしていたが、翌年の春、一人暮らししている自宅で倒れ、亡くなった。友達の後を追っていくような最後だった。
人生で一番大事なものは何かと問われたら、わたしは「人間関係が一番大事」と声を大にして言うだろう。
できることならば、子供の頃の自分に聞かせたいと思う。
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