馬場馬術を観よう!~RRC FINAL2024に向けて~
引退競走馬のための馬術競技大会RRC(Retired Racehorse Cup)2024のファイナル大会が11/29~12/1に、JRA馬事公苑を会場に行われます。
パリ五輪で総合馬術日本代表が92年ぶりにメダルを獲得し、にわかに注目を浴びる馬術競技。2018年から開催されているRRCですが、今大会では2018年の有馬記念(GⅠ)を優勝したブラストワンピースが馬場馬術に出場するなど注目を集めています。
また、11/27には人気アプリ「ウマ娘プリティーダービー」にブラストワンピースが登場することが生配信番組「ぱかライブTV」内で発表され、同番組内でもRRCファイナル大会が紹介されるなど、例年以上に馬場馬術への注目が高まっています。
ところで、みなさんは馬場馬術の競技をご覧になったことはありますか?
筆者は少しだけ馬に乗る程度には馬好きなのですが、はっきり言って馬場馬術って地味です。お馬さんがただトコトコ走ってるだけやん、って感じに見えます。RRCではホースショーでやるような派手な歩き方もしないので、本当に地味に見えがちです。
せっかく「ブラストワンピースが出るって言うから見てみようかな~」という方が、「お馬さんトコトコで草」で終わってしまってはもったいない!そう思って、私なりにRRCファイナル大会馬場馬術競技の観点・見どころをまとめてみました。
そもそも馬場馬術競技とはどのようなものでしょうか?
日本馬術連盟のウェブサイトでは次のように説明されています。
……わかるような、わからんような。少し噛み砕いて説明します。
①3種類の歩法を使い分け、使いこなす!
馬には4種類の歩法(歩き方)があります。
・4本の脚がバラバラのタイミングで動く《常歩(なみあし)》
・前後一対の脚を同時に動かし、2拍子のリズムで歩く《速歩(はやあし)》
・「パカラッ」の3拍子で軽やかに走る《駈歩(かけあし)》
・競馬で見せる全力疾走の《襲歩(しゅうほ)》(※馬術では使いません)
馬場馬術では、この4種の歩法から襲歩を除いた3種類の歩法を使い分けて歩き、その正確さや美しさを競います。
②決められた経路を、正確に美しく歩く!
馬場馬術の競技アリーナ(低い柵で区切られた範囲内)を見ると、柵の角などにアルファベットの標記が付いています。これは馬が歩くべき経路(ルート)を示すもので、各地点間の歩法も指定されています。真っ直ぐ歩くべきところは真っ直ぐに、円を描くべきところはきれいな円を描いて、正しい歩法で歩けるかどうかを競います。
雰囲気としてはフィギュアスケートに近いかも知れませんね。
では、観戦する側はどこに注目すればいいか。歩法だの経路だのを今から覚える……というのはハードルが高いでしょう。そんなあなたは次の2つの観点だけ覚えて行ってください。難しいことはありません。
観点その1:スーッと歩き出して、ピタッと止まれると良い!
観点その2:馬はキレイに走ってて、上の人はただ跨ってるだけに見えると良い!
……これだけです。
この2つの観点について、ここからは実際の経路と合わせながら、いくつかの見どころを紹介したいと思います。参考のために昨年(RRC2023)の演技の映像と、経路の図解(PDF)のリンクを貼っておきますが、無理に覚えたり理解しようと頑張らなくて大丈夫です。あと、私が間違ったこと書いてたらごめんなさい。
◇RRC2023ファイナル大会 馬場馬術1位の演技はこちら(16:14~)↓
◇RRCファイナル大会で使う「NRCAオリジナル馬場馬術課目2023」の経路図解はこちら(PDFファイル)↓
https://jouba.nrca.or.jp/tests/assets/NRCA_original-baba_2023_zukai.pdf
観点その1:スーッと歩き出して、ピタッと止まれると良い!
前述のとおり、馬場馬術ではリズムの異なる3種類の歩法を使い分けます。選手(ライダー)は、歩法を切り替えるときに馬に指示を出しますが、馬がこの指示に素早く反応し、スムーズに歩法を切り替えられるかどうかが馬場馬術のポイントになります。
たとえば経路図解の⑩~⑪、常歩で馬場を斜めに横切り、Hの角を境に常歩から駈歩に切り替え、駈歩で大きな円を描くように歩く(輪乗り)という一連の動きがあります。4拍子でゆっくり歩く常歩から、3拍子で軽やかに走る駈歩への切り替えがスムーズにできるかどうか、というのは難しいポイントの一つです。これを、速歩などを挟まずにスーッと切り替えられるかどうかは注目ポイント。
また、キレイに止まれるかどうかというのも馬場馬術では重要です。経路図解の①、人馬は最初に競技アリーナの中心で停止し、敬礼をします。このとき、馬の脚が前後バラバラでなく、揃って真っ直ぐ立つ形で止まれているかどうかや、選手(ライダー)が停止の指示を出したときに、馬がよろけたり後ずさったりしないかなどがポイントとなります。ピタッと止まれると、それだけで映えです。
経路図解の⑧~⑨を見ると、Kの角から進んでAの点で停止し、そこから後ろに5歩後退し、すぐ前へ進み始めるという動きがあります。一般的に前に進むときは重心を前に、後ろに進むときは重心を後ろに置きますが、これを短い間に前・後ろ・前と切り替えなければならず、よろける馬も少なくありません。ピタッと止まる、大事です。
お詳しい方向けの話では、手前変換もこの「スーッと歩き」の観点に含めさせてください。「手前」というのは、馬が歩くとき左右どちらの前脚をより前に出すかのことで、右前脚がより前なら「右手前」、左前脚がより前なら「左手前」と言います。一般的に、右回りは右手前で、左回りは左手前で歩きます。直線はどちらでもよく、馬はこの「手前」を切り替えることでより疲れずに歩くことができます。
経路図解の①~②を見ると、スタートしてから右回りにMの角まで歩き、対角のKの角まで「斜め手前変換」しながら速歩、その後Kの角からFの角まで左回りに歩きます。最初は右回りなので右手前、その後の斜めの直線を歩きつつ「手前」を切り替えて、今度は左回りを左手前で歩く……という流れですが、この「手前変換」がスムーズに出来ると、一連の動きがキレイに見えます。
なお、「手前変換」については、最初に挙げた動画(「競馬術~RRC FINALへの道2024~」)の13:35~でも紹介されていますが、傍目に見ていてもなかなかわかりにくい所なので、初心者の方は気にしなくても大丈夫です。
(一応、頭出しした動画を再掲します↓)
https://youtu.be/Z_RMEi5oh6g?si=0mKdlbvllTn0rOw5&t=815
観点その2:馬はキレイに走ってて、上の人はただ跨ってるだけに見えると良い!
RRCファイナルの経路では、5回の「輪乗り」があります。円を描くように歩くのですが、これが難しい。馬に曲がる指示を出すとき、選手(ライダー)は身体の重心を傾けたり、馬体を脚で圧迫したり、手綱で馬の視線を曲がる方向に向けたりと様々な方法を駆使します。これらの指示をいかにもやってないかのように(=馬がひとりでに動いているかのように)、かつ美しい円を描いて歩けるかどうか、というのが注目ポイント。RRCファイナル大会では、最初2回(経路図解④、⑦)は競技アリーナの幅半分ほどの小さい輪乗りを、後半3回(経路図解⑪、⑭、⑰)は競技アリーナの幅いっぱいの大きな輪乗りを行います。
また、最後の大きな輪乗り(経路図解⑰)は「手綱を伸ばした軽速歩」が指定されています。ふつう馬に乗るときは、馬の口元(ハミ)から騎乗者の手まで手綱がピンと張っていて、騎乗者の手は臍の高さぐらいを保っていなければならない……とされています。これは人が馬に対して緊張感を与え続けるために必要なことですが、ここではあえて手綱を伸ばし、馬をリラックスさせつつも勝手をさせず、必要な動き(輪乗り)を続けられるかどうかをチェックしています。
長々と書きましたが、まずは多くの方に馬場馬術競技も見ていただいて、馬ってこんなにキレイに歩く生き物なんだな、と思っていただければ幸いです。