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ミス・ブランチの美しさ
前の年、NHKの日曜美術館で、たまたま目にした「倉俣史朗・デザインの魔法」。出ていた「ミス・ブランチ」という椅子の特異性に目が行った。透明のアクリルの中に薔薇を閉じ込めた美しい作品だ。
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生花ではなく、造花が使われていた。
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画面を撮ってみたが、映りは悪く、ネットを検索すれば、きれいな画像がたくさん見つかるだろう。
驚いたのは、「ミス・ブランチ」という名の由来。テネシー・ウィリアムズの戯曲「欲望という名の電車」の女主人公からとったというのだ。昔、その役をヴィヴィアン・リーが、相手役をマーロンブランドが演じていたモノクロ映画を見たことがある。
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欲望という名の電車の主人公は、歳をとり、すでに美しさは失われていたが、若い頃のような虚構の美の中で生きていた。
番組内では、こんな解釈はしていなかったが、この作品も、朽ちてしまう生花ではなく、造花がだからこそ、この世にない美しさを閉じ込め続けることができるのではと、感じた。
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「虚実皮膜」。近松門左衛門が唱えた言葉で、芸術は虚構と現実の紙一重にある。
この椅子は、虚構と現実の紙一重のところに存在しているようにも思える。