百合樹 第三章綺麗なことすら言えないなら ② 当然
第三章
綺麗なことすら言えないなら
いつのまにか、他のことには目もくれないほど、熱中するものを見つけてしまったりする。
最初は、一点だけだったはずが、次第に大きく広がって収拾がつかなくなる。
そんな風にして、大きくなった全てを抱えていたいと思うのは強欲なのだろうか。
当然
『日の丸の下に現れた十四年目のインディーズバンド』
『メジャーからの転落を経て日本武道館』
『フロムトーキョージャパン、フロムライブハウス』
こんな言葉たちを頭に浮かべるだけで、今から目の前で繰り広げられる景色が、簡単に見れたものではない。
とんでもない一幕であると実感できる。
そんな景色の中に、ワタシはいる。
彼らがそこに立ったその瞬間、彼らが音を鳴らしたその瞬間に、彼らが感情をぶつけるその先のアナタとして、ワタシがいるのだ。
彼らは、ボクもアナタもひとりだと言う。
ワタシがこの世に一人しかいない事実は、当たり前のことなのだが、彼らはそんな当たり前のことを大袈裟に言ってのける。
ただ、そんな当たり前のことをワタシたちは、大袈裟に叫んでもらえないと、気づけないままでいるのだ。
彼らの言葉によって、開幕から、私は、確固たる一人のワタシとしてその場に立たされたのである。
そして、続け様に全力でぶつけてくるのだ。
『誰が何を言おうと、誰が敵になり得ようと、アナタの味方である』と。
『他人が何を言おうがそんなもの、うるさい、知ったことじゃあない』
そう真っ向から叫んでくる。
聞く人からすれば、何を意味のわからないことを言っているんだ、などと言うかもしれないのだが、あえて言わせていただく。
この時点ですでに、彼らはワタシに向けて、ワタシのためだけに言葉をぶつけているのである。
(本当に思い上がりもいいところだ、と言われるかもしれない。しかし事実だ。)
彼らの戦い方は
どこまでいっても一対一の対峙。
アナタとワタシ。
会場のどこにいようとも、眼前まで、身体の芯まで言葉をぶつけにきてくれるのだから応えないわけにはいかないのだ。
『無駄なことなんて何一つない。』
とは、決して言ってくれない。
『無駄じゃなかったことにするため、そのための日々の積み重ね、その上にあるのが今日だ。』
彼らは、今がたまらなく愛しいのだと胸を張って叫ぶ。
ワタシは今日を迎えられてよかった。
思い返す。
同じような毎日を何度も何度も繰り返して、何の変哲もない、当たり障りのない日常を過ごしてきた。それでも止まらないで歩いてきた当たり前の日々。
当たり前の生活の上を歩いてきたからこそ、今日を迎えたのだ。
当たり前を歩いてきた先にある、今日という特別は、ワタシが出会って然るべき特別なのだと彼らに教えられた。
振り返る私の日常は、尊い足跡になった。
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