本田美奈子の「遺言」

11月に放送された「解禁!マル秘ストーリー」というテレビ番組で、本田美奈子が早すぎる晩年、病床で綴ったという日記が紹介され、そのなかにこんな文章があった。
「あたりまえ病…何、その病気?! と言う人が多勢いると思いますが、それもそのはず、私が勝手に作った病名です。(略)私は、ただ時を過ごす、平和な生活におんぶしてしまってる人を、あたりまえ病と言っています。こんなエラそうな事を言っている私も、あたりまえ病のひとりなんですけど……でも気が付いたんです。(略)自分達がなんの気なしに毎日している事、してもらっている事、全部もう1度振り返って考えてみてください。私達の身近にある〝小さな幸せ〟が、本当は、とても〝大きな大きな幸せだ〟という事に!」
観てすぐ、記事にするつもりだったけど、いろんな想いがよぎって、なかなかできなくて。年末の振り返りモードには、こんな言葉もよいのでは、と思います。
彼女とは一度だけ会ったことがあるけど、そのきゃしゃな容姿といい、こんな人生観を持つにいたる性格といい、素敵な女性だった。
「婚期が遅れそうなタイプだ」と言ったら、ちょっとムキになって、その理由を聞かれたけど、結婚しないまま、あの若さで亡くなってしまうとは思わなかったな……

(初出「痩せ姫の光と影」2010年12月)


健康が「あたりまえ」でないことに気づくのは、もっぱら病気になったとき。彼女もおそらくそうだったのだろう。だとしたら、歳を重ねて死ぬまでそこに気づかないこと、すなわち一生「あたりまえ病」でいることが幸せだともいえる。ただ、それもちょっとつまらないというか、どこか味気ないので、刺激を求めたり、ともすれば不健康なほうに走ったりもする。人間の浅はかさであり、同時に深みでもあるわけだ。

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