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18歳の自作詞~中森明菜と負のオーラ②

「♪臆病な私は 夢を見ることを知りません ガラス細工のように こわれることばかり恐れ ただ 今だけを みつめて歩いてます 心から笑うことを知りません 心を打ち明けることを知りません」
(中森明菜「夢を見させて…」作詞・中森明菜)

デビュー3年目、18歳の明菜が初めて作詞した作品。2コーラス目では、
「♪臆病な私は 素直な心を知りません 迷路のような 人の心の裏がわかるから ♪恐れずに今の愛を信じたい 心を閉ざしたあの日を忘れたい ♪素直になりたいから 自分が悲しいから」
などと綴られている。

この作品が、彼女のアルバムに発表された翌年、助川徳是という文学者が、太宰治の文学と通底する構造だと論じた。
その4年後、明菜は太宰のように自殺を図り、未遂に終わる。
この詞を書いた頃、彼女は人気絶頂で、近藤真彦とも蜜月状態。つまり「今の愛」を信じることで、悲しい「自分」から変われるかも、という期待を託した、とも考えられるわけだが、助川は、こう言っている。
「『自分が悲しい』と表白する人物に向かって、われわれは、慰めの言葉をかけてやるほか、何をするすべがあろうか」
たしかに「今の愛」を持ってしても、彼女の悲しい「自分」は変わらなかった。
それはある意味、彼女の「負のオーラ」が、いかにすさまじいものだったかを物語っていて、かつて彼女を取材した知人(女性)は、僕にこんな話をしてくれた。
「インタビューのあと、疲れきってしまって、2日間も寝込んだのよね。でも、あの負のパワーが全盛期には、作品に昇華されてたわけだから、そりゃすごいはずだわ」

以前紹介した「難破船」もそうだし、明菜のヒット曲には「自分が悲しい」という、負のセンチメンタリズムにあふれているものが多い。惜しむらくは、今の彼女の悲しさが、もはやメジャーなヒットにつながらないほど、深くなりすぎてしまっていることだろうか。


(初出「痩せ姫の光と影」2010年11月)

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