【10】隠された子どもの行方は
9.
学園祭二日目はナギと青輝が大学へ来た。本来であれば、ゆっくり楽しんでもらいたい。しかし、状況が状況なだけにそうも言っていられない。斎はナギに昨日のことを説明した。
「俺は青ちゃんと学園祭を楽しみながら探す。何かあればすぐに連絡をくれ」
「了解」
斎と雛乃はナギと青輝と別れた。学園祭を楽しむふりをしつつ生霊を探す。昨日も散々歩き回った。今日もどこに現れるかわからないので歩き回るしかない。
「ねえ、おにいちゃんとおねえちゃんといっしょじゃだめなの?」
「んー、そうだな。彼らの仕事が終われば一緒にいられるかな」
「おしごとか……」
青輝は斎と雛乃が去った方向をじっと見つめる。ナギの瞳には寂し気な表情に映った。
「あとですぐ会える。さ、はぐれないように手を繋ごう」
「うん」
青輝は愛らしい笑顔をナギに向けた。
手分けして探そうと斎と雛乃は分かれて校内を歩く。誠から斎に学園祭を一緒に回らないかと誘いの連絡があったが、断った。そのすぐ後にナギから連絡が入った。
青輝が生霊を見た、と。
斎はナギの隠力を辿って彼らの元にたどり着いた。遅れて雛乃もやってきた。かなり息が上がっていて離れたところにいたようだった。
「ここ?」
「うん。しろいおんなのひとがいた」
斎が植物を育てているゼミ部屋の前だ。窓ガラスは割れたまま、散らばったガラス片もそのままになっている。教授には斎から報告した。植物を観察していて誤って鉢を手から滑らせたらガラスが割れたと。不自然なほどガラスが飛び散っていたが深くは詮索されなかった。
「昨日もここにいた」
「清香ちゃんには関係ない場所のはずなのに。何かあるのかな」
「もしかして、この植物に溜めてる隠力に反応してる?」
「だとしたら、いっちゃんの前にだけ出てこないのはおかしくないか?」
「確かに。隠力に反応してるなら、加賀見くんの前に出るのもおかしな話だし」
「いっちゃんに会いたくないってこと?」
「さあ」
「それはないんじゃないかなあ」
「どうしてだ、雛ちゃん」
「だって清香ちゃん、斎を追いかけてここの大学に入ったんだよ。それって斎と一緒にいたいってことだよね」
「だったら、いっちゃんの前に出てこないのは尚更おかしいな」
「――――他の人が邪魔、とか?」
「は?」
雛乃とナギの声が重なる。
「講義がない時は一緒にいるんだし、二人になる時間が欲しい、とか?」
「それは自惚れてるんじゃないか、いっちゃん」
「いや、あるかもしれない。私や誠くんが斎と話してる時羨ましそうに見てるから」
「だとしたら、他の人が邪魔なのもわかるな」
「でも友達なんだろう、いっちゃんも雛ちゃんも」
「そうだと思ってたんだけどな」
雛乃が寂し気に目を伏せる。
「表面では仲良くして実は、なんてことあるかもしれない。本心なんて口にされないとわからないから」
「ま、本人が気づいてない可能性もあるがな」
「どういう意味、ナギさん?」
「言葉のままだ。何となくもやっとする。理由はわからないけど、苛々するってあるだろう。その出所を自分で探そうとしない限り、本人すら気づけないんだよ」
「無自覚なまま生霊になった、と?」
「そうかもしれない。生霊は強い想い、というよりその人自身を苦しめる感情の表れでもある。強い嫉妬心と独占欲、羨望が生霊にしているのかもしれない」
斎と雛乃はナギの言葉に顔を見合わせた。
「そうとわかれば、また加賀見くんが襲われる可能性もある」
「私、今どこにいるか連絡してみる」
小さくお礼を言った斎はナギに向き直る。
「僕は一人でいる。その方が生霊も出やすいと思うんだ」
「加賀見くん、だったか。彼はどうする? 大学にいるなら誰か一緒にいた方がいいと思うが」
「私一緒にいるよ。今、野外ステージにいるらしいから行くね。一人の時に襲われてるから、二人でいれば襲われる可能性は低くなるだろうから」
「生霊がいっちゃんのところに現れてくれればいいんだが」
「探すしかない、か」
それぞれ人ごみに紛れた。
斎は自分の前に生霊が出てくるのを心待ちにしながら。