【9】隠された子どもの行方は
8.
週末の大学は人で溢れていた。学園祭が始まったのだ。
斎は雛乃と一緒に校内を回る。
「学校にいるとは限らないんじゃない?」
「学校でしか目撃情報がないんだよ。学校に何かしら強い想いを抱いてると考えるのが自然だと思う」
「そうかな。これだけ探しても見つからないし」
人を避けて生霊を探す。来場者が入れない場所にも足をのばした。講義室もひとつひとつ見て回る。隅々まで調べていたら三時間もかかってしまった。どこを探しても生霊は見つからない。まるでかくれんぼをしている気分だ。
「学園祭の陽気に誘われて出てくるかな」
「どうかな」
野外ステージや出店、展示物を見て回りながらも、生霊の気配に意識を向ける。人の気配も多く探しにくい。死霊も多くいて学園祭を楽しんでいる。色々な気配が混ざって気持ち悪い。
学生しか入らない物置としている講義室で少し休憩する。何度も校内を回り足が棒のようになっていた。所々生霊の残滓はあるものの姿は視えない。
「タイムリミットが迫ってるのに」
雛乃は苛立ちを露わにした。
「生霊になってから連続して七日間、身体に魂が戻らなければ――――死ぬ」
「目を覚まさないと連絡があったのは五日前。その後、目覚めたって連絡はない」
雛乃はスマホを見る。今日も連絡は来ていない。
「そこから考えても、学園祭が終わるまでには捕まえたい」
「絶対に死なせない」
雛乃はぐっとスマホを握りしめる。
窓から階下を行きかう人の波を見つめる斎は焦りの色を濃くした。
「立水さんが元気になったら、加賀見くんも誘ってみんなでご飯食べに行こう」
「そうね」
雛乃は穏やかな笑顔を見せた。
「早く見つけましょう、斎」
講義棟を出て人をかき分けながら歩き回る。雛乃は風に、斎は植物にも生霊を探させている。
「斎! こっち!」
いきなり雛乃が斎の手を取り走り出す。
「ど、どうした⁉」
「清香がいたって!」
「本当か⁉」
「わかんない、けど、風がこっちだって!」
肩で息をしながら辿り着いた場所に斎は目を丸くした。
「ここ?」
「う、うん…………」
自信なさげに雛乃は返事をした。
斎が植物の栽培に入り浸っているゼミ棟だ。懇意にしている教授に部屋を借りている。借りている部屋は一階で、窓際には鉢植えの植物が並んでいるので、どの部屋なのかはひと目でわかる。
学園祭の間は使われない棟だ。校内でも西の端にあるため、人気も少ない。
気配を探る。木々たちからも怯えのようなものを感じる。
建物の外にはいないようだ。
斎は自分が借りている部屋の窓から中を覗く。窓辺に並んだ植物の向こうに仄かに白く光る人がいる。
「いた」
「どこ⁉」
斎の隣で雛乃は窓を覗きこんだ。
「清香ちゃん!」
生霊が顔を向ける。片目がない。眼窩がくぼみ闇を切り抜いた底の知れない暗闇がそこにはあった。
死霊になりかけている。
斎は窓に手を当て植物に窓の鍵を開けさせようと隠力を送る。だが、植物がカギを開けるより早く生霊が窓に突っ込んできた。窓ガラスを破り外へ出た生霊が逃げる。
「待って!」
追いかける雛乃の後を追って斎も走り出す。
生霊は人込みに姿をくらませた。人の気配が濃くなり、生霊の気配もそれに紛れてしまった。