【11】隠された子どもの行方は

10-1.

 校門近くの広場に準備されたキャンプファイヤーに火が点けられた。後夜祭が始まる。西にはまだ夕方の気配が残っている時間だ。
 窓の割れたゼミ部屋の前に集まった斎と雛乃とナギは、汗だくになっていた。焦りの色を誰も隠そうとしない。
 青輝がいなくなった。
「手を繋いでたのに、切り離すように人が――」
 ナギはぐっと拳を握りしめた。
「生霊がさせたのか」
「わからない。だが、狙いは青ちゃんだった」
 隠力が開花して日が浅い十にも満たない子どもだ。狙いやすいのはわかるが、気づかれれば一緒にいるナギに捕まる可能性もある。危険を冒してまで青輝が必要だったのだろうか。
「もう一度探そう」
 ナギの言葉に斎も雛乃も表情を引き締める。
「木々たちが怖がってる。落ち着かないんだ。生霊の気配も追えない。青輝の気配も小さくてどこにあるのか……雛乃は?」
 首を横に振る。
「風も似たようなものよ。校内が真空になるんじゃないかってくらい逃げてる」
 ナギも探知能力を使っているが、青輝の気配がぼんやりとしていてわからない。まるで何かに包まれているようだと言っていた。生霊の気配を追ってみたものの結果は同じだった。
「風が逃げてるってことは生霊が近くにいるのかもしれない。建物とか中庭とかで一番風が避けてるところはあるか?」
 ナギの言葉に雛乃は風を探る。
「うーん……東にある、図書館?」
 斎は近くの木に触れて校内の植物の気配をみる。
「確かに。その辺りは木々たちも静かだ。死んだように反応がない。息を潜めてるみたいだ」
「決まりだな」
 ゼミ室から東の図書館まで移動する。途中キャンプファイヤーを囲んで楽しむ学生の姿が視界を横切った。こんなことになっていなければ清香も楽しんで参加しただろう。斎も雛乃も恐らく参加していた。清香がどうして生霊になったのかは皆目見当もつかない。だが、一刻も早く身体に戻さなければならないことは確かだ。
 学園祭では使われない図書館が開いている。学園祭二日間は終日閉まっているはずなのだが。
「生霊の目的が斎なら、一人で様子を見てこい」
 斎はナギの言葉に深く頷いた。
「危険よ!」
 雛乃の心配もわかるが、清香のためだ。
「何かあったら呼べ」
「はい」
扉から中の様子を窺う。特にいつもの図書館と変わりはない。
そっと開いた扉から慎重に足を進める。奥の本棚、扉から見えない本棚と本棚の通路からすすり泣く声が聞こえる。
「青輝?」
 斎は通路を覗きこんだ。
「いつきおにいちゃん!」
 驚きと喜びの笑顔がぱっと斎の目に焼きついた。
 窓はひとつ。入ってくる光は微々たるもので、通路には届かない。しかし、斎も青輝もお互いの顔を認識できる。夜目が利くのだ。これも隠力を使える人の能力のひとつだ。優れた身体能力と五感がある。第六感を持っている人もいるらしいが、斎は会ったことはない。
 周囲に警戒しつつ青輝に近づく。斎は数歩進んで足を止めた。

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