できないことなんてないんだから
ニュージーランドでホームステイをしていたころ、ホストファミリーのお家の中でリビングが一番好きだった。
そこにはホストファミリーと過ごすあたたかい時間がいつもあった。
ダイニングテーブルで夕食を食べながら今日あったことを簡単な英語と身振り手振りで話す時間。
当時3歳だったホストブラザーとおもちゃのギターを使ってエアギター大会をする時間。
Maroon5のsugarをみんなで踊り熱唱する時間。
ホストブラザーが寝静まった22時ごろに、大人だけでこっそりチョコレートケーキを食べる時間。
特別なことは何一つしていないけれど、自分に割り当てられた個室に籠るより、リビングにいる方が何倍も楽しく、なんだか落ち着いた。
英語がわからなくても不思議と安心できる空間と時間がそこにはあった。
最近読み終えた井形慶子さんの『少ないお金で夢がかなうイギリスの小さな家』という本では、イギリスの家々や家庭を表現するのに度々「ホームリー」という言葉が使われていた。
この本によると、「ホームリー」とは、落ち着く、居心地がいい、くつろげるといった意味を持ち、イギリス人は特にリビングを表す言葉として「ホームリー」を使い、またリビングが「ホームリー」であることを大切にしているという。
ニュージーランドのホストファミリーのお家のリビングもイギリス人の言う「ホームリー」だった。
ブラジルからニュージーランドへ移住してきたホストファミリーだったけれど、彼らの家にも「ホームリー」なリビングがたしかにあった。
この「ホームリー」なリビングであたたかい時間を過ごした当時大学生だった私は、日本に帰ってきてから少し生きづらくなった。
自分の家が冷たく冷え切っていることに気づいてしまったからだった。
今まで当たり前だったことが当たり前ではなかった。
それに気づいてからは、自分の家のリビングにいる時間が嫌になった。
お父さんがお風呂に入っているときは、お母さんからお父さんの愚痴を、お母さんが台所にいるときはお父さんからお母さんへの文句を、当たり前のように聞かされる場所。
どんな顔をしてごはんを食べればよいのかもわからず、ただ黙々とテレビに向かって箸を進める。
早く食べ終わりたい、早くリビングから消えてしまいたい、その一心で食べるごはんは味がよくわからず、お腹を満たすためだけの時間になった。
両親は自分を守ることにいっぱいいっぱいで、そんな私の異変に気づくこともなく、また私も自分の異変を上手く言葉で説明することができず、ふとした言葉に涙を流した。
リビングはごはんを食べる場所だけでなく、ちょっとした説教の場所でもあった。
ちゃんと大学には行っているのか?
将来はどうするのか?
就活は?インターンは?
髪色はそれでいいのか?
そんな質問でさえとても苦しかった。
どれも自分が一番わかっているから。
そしてどれもたくさんの要因が相まってできていないから。
そんな説教の場でもあったから余計にリビングが嫌になった。
ここで家族と過ごす時間をなんとか減らしたかった。
苦しいとき私はよく眠った。
よく眠れば見たくない現実から離れられる。
そうして遅く起きてしまえば、両親は仕事に、弟は学校に行ってしまい、誰にもなにも言われずに、気をつかわずに、リビングでごはんを食べられる。
大学の単位を落としても、自分を守る時間が必要だった。
学生のころ、家と学校とアルバイト先の3つしか居場所が見えなかった。
どうやっても帰る場所は結局家で、それがまた苦しさをうみ、病んだ心は癒えず、スクールカウンセラーの先生に「もうこれからどうやって生きていけばいいのかわかりません。」と泣きじゃくった。
見えている世界が狭かった。
今も自分の家のリビングが苦手だ。
どんな顔をしてごはんを食べればいいのか未だにわからないし、将来どうするのか?と質問されるのが嫌でいつもビクビクしている。
今日も両親がリビングで口喧嘩をしていてお風呂場に逃げていた。
今もなおリビングが嫌なことに変わりはない。
けれど、今の私は見える世界が少し広くなった。
居場所のつくりかたも、病んだ心を自分で癒す方法も少しわかるようになった。
そしてできることも増えた。
だから、もっと早く自分の落ち着く場所を手に入れられるよう、今日も明日も明後日もがんばることにした。
そうしてきっと必ずホームリーなお家をつくるんだ。
だってできないことなんてないんだから。
「Homespum Style 」
こちらは本屋さんで買った海外のインテリア冊子。
たくさんのパターン集でいっぱいのこの本を見ると、こんなお家に住みたい!なんてワクワクしてきます。
素敵なお部屋の写真がたくさん載っているのですが、今夜は少し夜更かししてしまったので、また後日ご紹介することにします。
それではおやすみなさい。
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