司法試験 倒産法 平成24年度 第2問
問題
次の事例について,以下の設問に答えなさい。
【事 例】
金属製品のリサイクル業等を営むA株式会社(以下「A社」という。)は,債権者50社に対して総額約10億円の負債を負っていたことから,破産手続開始の原因となる事実の生ずるおそれがあるとして,平成23年5月30日に再生手続開始の申立てを行ったところ,同日に監督委員として弁護士Xが選任された上,同年6月3日に再生手続開始の決定を受けた。
〔設 問〕
以下の1及び2については,それぞれ独立したものとして解答しなさい。
1.A社は,平成23年1月21日,その主要な取引銀行であるB銀行から1億円の融資を受けるに当たり,その担保として,B銀行に対し,取引先のC株式会社(以下「C社」という。)外10社に対する金属製品の販売に係る売掛金債権をそれぞれ譲渡した。その際,対抗要件の具備については留保し,B銀行がA社を代理して譲渡通知を行うことができる旨の委任がA社
からB銀行にされた。
B銀行は,A社が再生手続開始の申立てを行ったことを受け,同年6月1日,上記の売掛金債権の譲渡担保について確定日付のある証書による債務者らに対する譲渡通知をしたものの,C社に対する売掛金債権については,この譲渡通知を行うことを失念していた。B銀行は,同月13日になってこれに気付いたことから,同日,C社に対し,当該売掛金債権につき確定日
付のある証書によって譲渡通知をするとともに,同月15日には,C社から確定日付のある証書による承諾も,取得した。
以上の場合において,A社がB銀行に対してC社に対する売掛金債権がA社に帰属することを主張することができるかどうかについて,B銀行の譲渡通知及びC社の承諾がそれぞれ再生手続上どのように取り扱われるかを踏まえて,論じなさい。
2.A社は,財産評定を完了し,平成23年7月29日,裁判所に対し,財産目録及び貸借対照表を提出した。これらによれば,A社の再生手続開始の時点における資産総額は,3億円であり,共益債権,一般優先債権及び破産手続において清算するための費用等を控除して算定した予想破産配当率は,10%とされていた。Xが調査を進めたところ,A社について,主要な取
引先であるD株式会社(以下「D社」という。)から再生債権である未払の売掛金を即時に弁済しなければ新規の取引を全て打ち切る旨を告げられたため,やむを得ず,再生手続開始後財産評定前の段階で,D社に対し,裁判所に無断で,500万円の弁済をしていたという事実が当該財産評定後に判明した。
なお,当該財産評定においては,上記の500万円の弁済後の資産が計上されていた。
その後,A社は,同年8月29日,裁判所に対し,再生計画案を提出した。当該再生計画案における権利の変更の一般的基準の要旨は,次の①から④でのとおりであった。
以上の事実関係を踏まえ,裁判所がA社の提出した再生計画案を決議に付すかどうかを判断するに当たり,どのような法律上の問題点があるかを論じ,あわせて,XがA社に対してどのような是正措置を採るように勧告すべきかについて,論じなさい。
関連条文
民事再生法
41条1項(第2章 再生手続の開始 2節 再生手続開始の決定):
再生債務者等の行為の制限
44条1項(第2章 再生手続の開始 2節 再生手続開始の決定):
開始後の権利取得
54条2,4項(第3章 再生手続の機関 1節 監督委員):監督命令
85条1,5項(第4章 再生債権 1節 再生債権者の権利):再生債権の弁済の禁止
167条(第7章 再生計画 2節 再生計画案の提出):再生計画案の修正
169条1項3号(第7章 再生計画 3節 再生計画案の決議) : 決議に付する旨の決定
174条2項(第7章 再生計画 4節 再生計画の認可等):
再生計画の認可又は不認可の決定
民法
467条1,2項(3編 債権 1章 総則 4節 債権の譲渡):債権の譲渡の対抗要件
703条(3編 債権 4章 不当利得):不当利得の返還義務
一言で何の問題か
清算価値保障原則、付議決定時の問題と是正措置
つまづき・見落としポイント
民事再生法では論点はほとんどないため、条文に基づいて一つずつ要件を検討する
答案の筋
概説(音声解説)
https://note.com/fugusaka/n/n96fac814b4d0
1 再生手続開始決定は再生債務者財産に対する包括的差押えの実質を有する以上,再生債務者は差押債権者類似の地位を有するものといえ「第三者」(民法467条1項)に当たる。一方、B銀行は監督委員の同意を得ることなく譲渡通知を行っており、善意無重過失とは認められず「第三者」(54条4項ただし書)に当たらない。また、再生債務者A社の行為によらず債務者C社の承諾により、再生債権である売掛金債権が再生債権者B銀行に帰属することになるため、B銀行は承諾の効力を主張できない(44条1項)。よって、債権譲渡担保である本件債権はA社に帰属する。
2 清算価値保障原則に反すること、及び法律の規定に違反していること(再生手続開始後、裁判所に無断でA社からD社に500万円の弁済)から、当該計画案を決議に付すことができない。また、前者については清算価値を満たす弁済率へと再生計画案を修正するよう勧告することが考えられ、後者については事業継続への著しい支障を回避するための少額弁済として,裁判所に申し立てて許可を得ることで不備を事後的に補正するよう勧告することが考えられる。なお、上記申立てが認められなかった場合,D社に不当利得返還請求権を行使するよう勧告すべきである。
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