見出し画像

司法試験予備試験 憲法 平成30年度


問題文

次の文章を読んで,後記の〔設問〕に答えなさい。

 A市教育委員会(以下「市教委」という。)は,同市立中学校で使用する社会科教科書の採択について,B社が発行する教科書を採択することを決定した。A市議会議員のXは,A市議会の文教委員会の委員を務めていたところ,市教委がB社の教科書を採択する過程で,ある市議会議員が関与していた疑いがあるとの情報を,旧知の新聞記者Cから入手した。そこで,Xは,市教委に対して資料の提出や説明を求め,関係者と面談するなどして,独自の調査を行った。
 Xの調査とCの取材活動により,教科書採択の過程で,A市議会議員のDが,B社の発行する教科書が採択されるよう,市教委の委員に対して強く圧力を掛けていた疑いが強まった。Cの所属する新聞社は,このDに関する疑いを報道し,他方で,Xは,A市議会で本格的にこの疑いを追及すべきであると考え,A市議会の文教委員会において,「Dは,市教委の教科書採択に関し,特定の教科書を採択させるため,市教委の委員に不当に圧力を掛けた。」との発言(以下「本件発言」という。)をした。
 これに対し,Dは,自身が教科書採択の過程で市教委の委員に圧力を掛けた事実はなく,Xの本件発言は,Dを侮辱するものであるとして,A市議会に対し,Xの処分を求めた(地方自治法第133条参照)。
 その後,Dが教科書採択の過程で市教委の委員に圧力を掛けたという疑いが誤りであったことが判明し,Cの所属する新聞社は訂正報道を行った。A市議会においても,所定の手続を経た上で,本会議において,Xに対し,「私は,Dについて,事実に反する発言を行い,もってDを侮辱しました。ここに深く陳謝いたします。」との内容の陳謝文を公開の議場において朗読させる陳謝の懲罰(地方自治法第135条第1項第2号参照)を科すことを決定し,議長がその懲罰の宣告をした(この陳謝の懲罰を以下「処分1」という。)。
 しかし,Xが陳謝文の朗読を拒否したため,D及びDが所属する会派のA市議会議員らは,Xが処分1に従わないことは議会に対する重大な侮辱であるとの理由で,A市議会に対し,懲罰の動議を提出した。A市議会は,所定の手続を経た上で,本会議において,Xに対し,除名の懲罰(地方自治法第135条第1項第4号参照)を科すことを決定し,議長がその懲罰の宣告をした(この除名の懲罰を以下「処分2」という。)。
 Xは,Dに関する疑いは誤りであったものの,本件発言は,文教委員会の委員の活動として,当時一定の調査による相応の根拠に基づいて行った正当なものであるから,①自己の意に反して陳謝文を公開の議場で朗読させる処分1は,憲法第19条で保障されるべき思想・良心の自由を侵害するものであること,②議会における本件発言を理由に処分1を科し,それに従わないことを理由に処分2の懲罰を科すことは,憲法第21条で保障されるべき議員としての活動の自由を侵害するものであることを理由として,処分2の取消しを求める訴えを提起しようとしている。

設 問
 Xの提起しようとしている訴えの法律上の争訟性について言及した上で,Xの憲法上の主張とこれに対して想定される反論との対立点を明確にしつつ,あなた自身の見解を述べなさい

【資料】地方自治法(昭和22年法律第67号)(抄録)
第133条 普通地方公共団体の議会の会議又は委員会において,侮辱を受けた議員は,これを議会に訴えて処分を求めることができる。
第134条 普通地方公共団体の議会は,この法律並びに会議規則及び委員会に関する条例に違反した議員に対し,議決により懲罰を科することができる。
 ② (略)
第135条 懲罰は,左の通りとする。
 一 公開の議場における戒告
 二 公開の議場における陳謝
 三 一定期間の出席停止
 四 除名
 ②・③(略)

関連条文

憲法
15条1項(第3章 国民の権利及び義務):公務員選定罷免権
19条(第3章 国民の権利及び義務):思想及び良心の自由
21条1項(第3章 国民の権利及び義務):集会・結社・表現の自由
76条1項(第6章 司法):司法権・裁判所
93条2項(第8章 地方自治):地方公共団体の直接選挙
裁判所法
3条1項(第1編 総則):裁判所の権限(法律上の争訟)
民法
723条(第3章 不法行為):名誉棄損における原状回復
民事執行法
171条(第2章 強制執行):代替執行
刑法
230条の2 第2項(第34章 名誉に対する罪):公共の利害に関する場合の特例

一言で何の問題か

謝罪文の朗読と除名処分

答案の筋

19条については、発言が誤りであったことからすれば、単なる事実の告白と陳謝を外示するものであり、信条にまで踏み込むものではなく、思想・良心の自由には反しない。
21条1項については、部分社会の法理⇔高度の自主性➡手続的審査のみ⇔民主主義で尊重されるべき議員活動の自由➡実体的審査も必要
陳謝の拒絶による議会秩序への影響は重大とはいえず、議員資格を剥奪しなければ達成できないものでもなく、より下位の懲罰(出席停止)によっても達成でき、その必要性及び合理性を欠くと言え21条1項に反し違憲。

ここから先は

3,067字

¥ 500

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?