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司法試験予備試験 商法 令和元年

割引あり

問 題

次の文章を読んで,後記の〔設問1〕及び〔設問2〕に答えなさい。
1.甲株式会社(以下「甲社」という。)は,加工食品の輸入販売業を営む取締役会設置会社であり,かつ,監査役設置会社である。甲社は,種類株式発行会社ではなく,その定款には,譲渡による甲社株式の取得について甲社の取締役会の承認を要する旨の定めがあるが,株主総会の定足数及び決議要件について,別段の定めはない。
2.甲社の発行済株式の総数は200株であり,平成28年12月1日に創業者Aが急死するまでは,Aが100株を,Aの妻Bが全株式を有し代表取締役を務める乙株式会社(以下「乙社」という。)が40株を,Aの長男Cが30株を,Aの長女Dが20株を,Aの二女Eが10株を,それぞれ有していた。
3.甲社の定款には,取締役は3人以上,監査役は1人以上とする旨の定めがあり,また,取締役及び監査役の任期をいずれも選任後10年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までとする旨の定めがある。Aが死亡する直前では,A及びCが甲社の代表取締役を,D及びEが取締役を,甲社の従業員出身Fが監査役を,それぞれ務めていた。甲社の役員構成については,Aの死亡後も,Aが死亡により取締役を退任したこと以外に変更はない。
4.Aの死亡後,Aの全相続人であるB,C,D及びEが出席した遺産分割協議の場において,Cは,Aが有していた甲社株式100株を全てCが相続する案を提示した。しかし,Dが強く反対したため遺産分割協議が調わず,当該株式については株主名簿の名義書換や共有株式についての権利を行使すべき者の指定がされないままであった。
5.この頃から甲社の経営方針をめぐるCとDの対立が激しくなった。Cは,何かにつけてDを疎んじ,甲社の経営を独断で行うようになった。Cは,甲社の経営の多角化を積極的に進めるために,知人の経営コンサルタントに多額の報酬を支払って雑貨の輸入販売業にも進出した。しかし,その業績は思うように伸びず,ついには多額の損失が生ずるようになった。
Dは,このままでは甲社の経営が破綻するのではないかと恐れ,平成31年3月頃,Cの経営手腕の未熟さについてBに訴えた。Bは,CとDが協力して甲社を経営していくことを望んでいたが,他方では,Cの経営手腕に不安を抱いていたので,この際,DがCに代わって甲社の経営を担うのもやむを得ないとの考えに至り,Dを支援することとした。
6.平成31年4月22日,乙社は,Dが全株式を有し代表取締役を務める丙株式会社(以下「丙社」という。)との間で,乙社を分割会社,丙社を承継会社とする吸収分割(以下「本件会社分割」という。)を行い,これにより,乙社が有する甲社株式40株を全て丙社に承継させた。丙社は甲社に対して株主名簿の名義書換請求をしたが,Cは甲社を代表して本件会社分割による甲社株式の取得が甲社の取締役会の承認を得ていないことを理由にこれ
を拒絶した。このことがあってから,Cは,Dを強く警戒するようになり,Dを甲社の経営から排除することを考え始めた。
7.令和元年5月9日にCの招集により開催された甲社の取締役会には,C,D,E及びFが出席した。定例の報告が終わった後,Cは,決議事項として予定されていなかったDの取締役からの解任を目的とする臨時株主総会の開催を提案した。驚いたDは激しく抵抗したが,Cは決議について特別の利害関係を有するという理由でDを議決に参加させることなく,C及びE
の賛成をもって,Dの取締役からの解任を目的とする臨時株主総会を同月20日午前10時に甲社本店会議室で開催することを決議した(以下「本件取締役会決議」という。)。

〔設問1〕
上記1から7までを前提として,本件取締役会決議の効力を争うためにDの立場において考えられる主張及びその主張の当否について,論じなさい。

8.Cは,令和元年5月10日,本件取締役会決議に基づき,乙社,C,D及びEに対し,臨時株主総会の招集通知を発した。同月20日午前10時に甲社本店会議室で開催された臨時株主総会(以下「本件株主総会」という。)には,C,D及びEが出席したが,乙社を代表するBは病気と称して出席しなかった。本件株主総会では,定款の定めに基づき,Cが議長となり,Dを取締役から解任する旨の議案につき,C及びEは賛成し,Dは反対した。Dは,丙社を代表して丙社が本件会社分割により取得した甲社株式40株についても議決権を行使して当該議案につき反対する旨主張した。しかし,議長であるCは,これを認めず,行使された議決権60個のうち40個の賛成があったとして,Dを取締役から解任する旨の決議の成立を宣言した(以下「本件株主総会決議」という。)。

〔設問2〕

本件株主総会決議の効力を否定するためにDの立場において考えられる主張(〔設問1〕の本件取締役会決議の効力に関する事項を除く。)及びその主張の当否について,論じなさい。

関連条文

会社法
105条1項3号(2編 株式会社 2章 株式 1節 総則):株主の権利
106条(2編 株式会社 2章 株式 1節 総則):共有者による権利の行使
134条4号(2編 株式会社 2章 株式 3節 株式の譲渡等):
 株主の請求による株主名簿記載事項の記載又は記録(適用除外)
298条1項2号(2編 株式会社 4章 機関 1節 株主総会及び種類株主総会等):
 株主総会の招集の決定(目的)
299条4項(2編 株式会社 4章 機関 1節 株主総会及び種類株主総会等):
 株主総会の招集の決定
341条(2編 株式会社 4章 機関 3節 役員及び会計監査人の選任及び解任):
 役員の選任及び解任の株主総会の決議
355条(2編 株式会社 4章 機関 4節 取締役):忠実義務
369条2項(2編 株式会社 4章 機関 5節 取締役会):
 取締役会の決議(特別利害関係取締役)
831条1項(7編 雑則 2章 訴訟 1節 会社の組織に関する訴え):
 株主総会等の決議の取消しの訴え

一言で何の問題か

設問1 取締役会の決議事項と投票参加の法的可否
設問2 会社分割による株式承継と遺産分割未了の準共有株式の扱い

つまづき・見落としポイント

吸収分割に伴う株式承継に対する評価と、譲渡制限の趣旨との抵触

答案の筋

設問1
Dは予定外の決議事項について無効を主張すると考えられるが、取締役会の臨機応変な対応能力を考えると不当である。
一方、Dが特別の利害関係を有する取締役であるとして議決から排除されたことは、本件決議の対象がDの解任であること、及び取締役の忠実義務を考慮すると違法であり、Dの決議無効の主張は正当である。また、Dが議決に参加していた場合は決議結果に影響を与えていたため、この排除による決議は無効となる。
設問2
取締役Dは、会社分割による譲渡制限株式の承継は一般承継に該当し、名義書換の拒絶は不当と主張するが、この解釈は譲渡制限の趣旨を逸脱するため不適切である。このため、甲社の承認を得ていない丙社の株式取得は無効と解すべきであり、Dの主張は失当である。
一方で、Dは株主総会決議の定足数算定について、準共有株式が定足数に含まれるべきと主張する。実際にAが保有していた株式を定足数に含めた場合、株主総会の議決権を有する株主の出席は過半数を欠く。したがって、この決議は法令に違反し、Dの株主総会決議の取消要求は正当である。

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