旧司法試験 商法 平成19年度 第1問
問 題
甲株式会社は、ホテル業を営む取締役会設置会社であり、代表取締役会⻑A及び代表取締役社⻑Bのほか、Bの配偶者C、弟D及びAの知⼈Eが取締役に就任している。
⼄株式会社は、不動産業を営む締役会設置会社であり、代表取締役Cのほか、B及びDが取締役に就任している。
Bは、⼤量の不稼動不動産を抱えて業績が悪化した⼄社を救済するため、同社の所有する⼟地(以下「本件⼟地」という。)を甲社に5億円で売却しようと考え、その承認のための甲社取締役会を招集した。⼊院中のAを除いたB、C、D及びEの4名が出席して取締役会が開催され、当該取締役会において、Bが本件⼟地の売買についての重要な事実を開⽰してその承認を求めたところ、Eから5億円の価格に難⾊が⽰されたものの、Bからバブル時代の⼟地価格を考えれば5億円の価格は決して⾼くないとの発⾔があっただけで、価格の相当性について議論がされることはなく、Cを議決に加えずに採決が⾏われた結果、Eは棄権したが、B及びDの賛成により本件⼟地の購⼊が承認された。
そして、Bは、甲社を代表して、⼄社との間で本件⼟地を5億円で買い受ける売買契約を締結し、所有権移転登記⼿続と引換えに代⾦5億円を⽀払い、さらに、遅滞なく、本件⼟地の売買についての重要な事実を甲社の取締役全員が出席する取締役会で報告した。
その後、上記売買契約当時の本件⼟地の価格は、⾼く⾒積もっても3億円を超えないことが判明した。
甲社は、A、B、C、D及びEに対し、それぞれどのような責任を追及することができるか。
関連条文
会社法
330条(第2編 株式会社 第4章 機関 第3節 役員及び会計監査人の選任及び解任)
:株式会社と役員等との関係
356条1/2項(第2編 株式会社 第4章 機関 第4節 取締役):
競業及び利益相反取引の制限
362条2項2号(第2編 株式会社 第4章 機関 第5節 取締役会):
取締役会の権限等(取締役の職務の執行の監督)
365条1項(第2編 株式会社 第4章 機関 第5節 取締役会):
競業及び取締役会設置会社との取引等の制限
369条1項(第2編 株式会社 第4章 機関 第5節 取締役会):
取締役会の決議
423条(第2編 株式会社 第4章 機関 第11節 役員等の損害賠償責任):
役員等の株式会社に対する損害賠償責任
民法
644条(第3編 債権 第2章 契約 第10節 委任):受任者の注意義務
一言で何の問題か
利益相反取引をめぐる役員に対する責任追及
つまづき、見落としポイント
損害賠償以外の責任追及
答案の筋
特別利害関係取締役は、審議に参加するのみでも不当な影響を生じるから、審議に参加することは許されず、かかる瑕疵を有する取締役会は無効となり、取締役会の承認のない利益相反取引として本件売買契約は無効である。
このため、B・C・Dについては任務懈怠の推定規定が働き、これを覆す事情もないため、また、Eについては土地価格の相当性を議論しなかったことに加えて、Cの審議参加を妨げなかった点で、善管注意義務違反があり責任追及が認められる。
一方、Aについては、監視義務を果たすことができない事情が存在し、任務を怠ったとは言えないため責任追及は認められない。
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