旧司法試験 商法 平成19年度 第2問
問 題
運送業を営むA株式会社は、⼩規模で同業を営んでいるB株式会社に⾃らの業務の⼀部を委託していた。B社では、これまで⾃らの商号によってその事業を⾏ってきたものの、仕事を得ることが難しくなってきた。そこで、A社は、B社の代表取締役Cに対し、「A社副社⻑」の肩書を付した名刺の使⽤を許諾し、さらに、B社は、事務所にA社の商号を表⽰した看板も掲げて事業を⾏うようになった。
その後、B社は、次第に資⾦繰りが悪化し、事業の継続が事実上困難となってきたが、Cは、上記の名刺を⽤いて、DからB社の事業に⽤いている⾃動⾞の部品を100万円で購⼊し、Dは、B社の上記事務所において、相⼿⽅をA社と誤認して、当該部品を引き渡した。しかし、その代⾦は、Dに⽀払われなかった。
Dは、A社、B社及びCに対し、それぞれどのような責任を追及することができるか。
関連条文
会社法
9条(第1編 総則 第2章 会社の商号):
自己の商号の使用を他人に許諾した会社の責任
429条(第2編 株式会社 第4章 機関 第11節 役員等の損害賠償責任):
役員等の第三者に対する損害賠償責任
一言で何の問題か
代取による売買契約未履行時における責任追及の対象とその根拠
つまづき、見落としポイント
日常起こり得る問題として処理できるか
答案の筋
Dは、B社に対して100万円の代⾦⽀払請求をすることができる。この点、資⾦繰りが悪化しており実効性に欠けるところ、当該取引を敢えて行ったB社代取Cにこそ重過失が認められるため、任務懈怠に基づく損害賠償請求をすることができる。
A社については、B社が商号を使⽤して事業を⾏うことについて許諾はしておらず、名板貸について定めた会社法9条を直接適⽤することはできない。もっとも、Cが「A社副社⻑」という名刺を使⽤し、A社商号の看板を掲げており誤認するに足りる外観が存在していたと言え、また、A社は名刺使用を許諾していたという帰責性も存在することからすれば、事業主体についてDが誤認したのも⾃然であり、同条の類推適⽤が認められるため、DはAに対して100万円の⽀払請求をすることができる。
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