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司法試験 倒産法 令和元年度(平成31年度) 第2問


問題

次の事例について,以下の設問に答えなさい。
【事 例】
機械メーカーであるA株式会社(以下「A社」という。)(資本金1億円)は,平成29年末に債務超過となり,支払不能となった。その後,A社は,平成30年1月18日に再生手続開始の申立てをし,裁判所は,同年1月25日に再生手続開始の決定をした。
A社は,B株式会社(以下「B社」という。)の完全子会社で,B社は,A社に対して貸金債権20億円を有している。A社は,平成20年の初め頃にB社の完全子会社となって以来,その取締役の過半数はB社からの出向者であり,現在のA社社長を含む歴代の社長もB社が指名してきた。
A社が支払不能になったのは,①平成23年頃からB社の指示により無謀な設備投資を続けて資金繰りが悪化したこと,②同じくB社の指示により平成29年8月から取引を開始した甲株式会社について同年11月に破産手続が開始され,同社に対する売掛債権が回収不能となったことが主たる原因であった。
一方,C株式会社(以下「C社」という。)は,A社に継続的に部品を納入していたが,A社による無謀な設備投資に危惧を抱き,平成29年1月にA社との取引を停止した。しかし,C社は,同年7月,「当社がA社の支援を続けるから協力願いたい」とのB社からの説得を受け,同月から取引を再開した結果,平成30年1月前半までに納入した部品に係る売掛債権10億円を有するに至った。
A社の再生手続開始を受け,平成30年3月1日,B社は貸金債権20億円を,C社は売掛債権10億円をそれぞれ再生債権として届け出た。A社は,B社及びC社が届け出た再生債権をいずれも認めた。なお,B社,C社以外に再生債権者はいない。

〔設 問〕
以下の1,2については,それぞれ独立したものとして解答しなさい。
1.A社は,財産評定を完了し,平成30年4月25日,裁判所に対し財産目録及び貸借対照表を提出したが,これらに基づく予想清算配当率は10パーセントであった。
しかし,A社は,再生手続開始後,顧客離れが進んだため売上げが振るわず,再生計画案提出直前の業績及び財産状況を前提とすると,想定される再生計画認可決定の日を基準とする予想清算配当率は5パーセントと見込まれた。
A社は,裁判所に対し,平成30年5月16日, 要旨,次のような再生計画案を提出した。
① 再生債権の元本並びに再生手続開始決定日の前日までの利息及び遅延損害金の合計額のうち再生計画の認可決定確定時にその95パーセントの免除を受ける。
② 再生手続開始決定日以後の利息及び遅延損害金は,再生計画の認可决定確定時に全額の免除を受ける。
③ 上記①の権利変更後の債権額(5パーセント)は,再生計画の認可決定確定日から3か月以内に半額を,1年3か月以内に残額を,それぞれ支払う。
上記の再生計画案に対して,C社は,(a)清算価値保障原則に違反している,(b)A社の完全親会社であり,かつA社の破綻に責任のあるB社の再生債権はC社の再生債権よりも劣後して扱うべきである,との趣旨の意見書を裁判所に提出した。
裁判所は,この再生計画案を付議することができるか,民事再生法第169条第1項第3号に照らし,C社の上記(a)及び(b)の主張ごとに問題となる条文を摘示して論じなさい。
2.A社の事業には同業の乙株式会社(以下「乙社」という。)が関心を持っており,A社の事業を譲り受けたいと考えている。乙社は,平成30年2月25日,顧客離れに伴うA社の事業価値の毀損を防ぐため,再生計画によらずに早期にA社の全ての事業を譲り受けることをA社に対して申し入れた。
以上の事実を前提に,以下の⑴,⑵について,それぞれ独立したものとして解答しなさい。
⑴ A社は,平成30年3月1日,乙社からの申入れについてB社とC社に説明したところ,B社はこれに強硬に反対し,C社は賛成の意向を示した。A社が乙社からの申入れを受け,再生計画によらずに乙社へA社の全ての事業を譲渡する場合の手続について説明しなさい。
⑵ A社は,乙社へ事業を譲渡することなく自力で再建する方針を固め,平成30年5月16日,再生計画案を裁判所に提出するとともに,B社とC社に説明した。当該再生計画案では,B社とC社の再生債権のいずれについても85パーセントの免除を受け,15パーセントを分割弁済するものとされている。また,乙社へ事業を譲渡することなく,引き続きB社の完全子会社として再建していく方針が示されている。
A社の提出に係る当該再生計画案が付議されたとして(他に再生計画案は提出されていないものとする。),これにC社が債権者集会において同意しなかった場合のその後の再生手続の帰すうについて,論じなさい。

関連条文

民事再生法
42条1項(第2章 再生手続の開始 2節 再生手続開始の決定):営業等の譲渡
43条1項(第2章 再生手続の開始 2節 再生手続開始の決定):
 事業等の譲渡に関する株主総会の決議による承認に代わる許可(代替許可)
155条1項(第7章 再生計画 1節 再生計画の条項):再生計画による権利の変更
169条1項3号(第7章 再生計画 3節 再生計画案の決議) :決議に付する旨の決定
172条の3第1項(第7章 再生計画 3節 再生計画案の決議):
 再生計画案の可決の要件
174条2項(第7章 再生計画 4節 再生計画の認可等):
 再生計画の認可又は不認可の決定
191条3号(第9章 再生手続の廃止):再生計画認可前の手続廃止
249条1項(14章 再生手続と破産手続との間の移行 2節 再生手続から破産手続への移行):再生手続終了前の破産手続開始の申立て等
250条1項(14章 再生手続と破産手続との間の移行 2節 再生手続から破産手続への移行):再生手続の終了に伴う職権による破産手続開始の決定
会社法
309条2項11号(2編 株式会社 4章 機関 1節 株主総会及び種類株主総会等):
 株主総会の決議
467条1項1号(2編 株式会社 7章 事業の譲渡等):事業譲渡等の承認等

一言で何の問題か

1 不認可決定事由と清算価値保障原則、債権者平等原則
2(1) 事業譲渡のための手続、代替許可
2(2) 再生計画案否決後の手続

答案の筋

1 A社の破綻に責任のあるB社をC社より劣後的に扱わなかったからといって,債権者平等原則違反が認められることとはならない。一方、予想清算配当率の基準時について、保障最低額が再生手続による影響を受けるべきではないといえ,再生手続開始決定時点から最も近い時点を基準とすべきところ、清算価値保障原則に反しているため、不認可決定事由が認められ,裁判所は付議決定をすることができない。
2(1) 「事業の再生のために必要」な場合にあたり、裁判所の許可を得て、再生手続によらずに事業の全部を譲渡することができる。加えて、「事業の継続のため必要」な場合にも当たり、代替許可は認められ、事業の譲渡が可能となる。
2(2) C社が同意をしなかった場合,議決権額要件及び頭数要件のうち後者を満たせず、本件再生計画は否決され、裁判所は職権で再生手続廃止決定を行い再生手続は終了する。その後は申立て又は職権により破産手続開始決定がされる。

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