司法試験 倒産法 令和元年度 第1問
問 題
次の事例について,以下の設問に答えなさい。
【事 例】
A株式会社(以下「A社」という。)は,主に個人向けの住宅や企業向けのビルの設計・建築を手掛けている会社である。
A社は,営業地域全体の人口減少等による市場規模の縮小により,苦しい経営を続けていたが,A社が設計・建築を請け負ったビルの外壁タイルが剥がれ落ち,通行人が怪我をするという事故が発生したことが契機となって,住宅やビルの設計・建築の注文が減って売上げが激減した。その結果,平成30年3月初め頃,同月末日を納期限とする租税債権(300万円)だけでなく,同日を支払期日とする多くの取引先に対する債務の弁済に充てる資金がないことが判明した。
そこで,A社は,古くからの取引先であるB株式会社(以下「B社」という。)に依頼して,平成30年3月20日,当該租税債権を納付(代位弁済)してもらった。その後,A社は,同月26日,裁判所に対して破産手続開始の申立てをし,同月29日,破産手続開始の決定(以下「本件破産手続開始決定」という。)を受け,破産管財人として弁護士Xが選任された。
〔設 問〕
以下の1から3については,それぞれ独立したものとして解答しなさい。
1.B社は,A社の破産手続との関係で,どのように権利行使をすることができるか,想定される破産管財人Xの主張を踏まえて,論じなさい。
2.A社は,Cとの間で,平成29年9月30日,請負代金2000万円で住宅(以下「本件住宅」という。)を建築すること(以下「本件建築工事」という。)を請負い,Cは,契約締結時に上記請負代金の内金として1200万円,建物完成時に800万円を支払うことを内容とする請負契約を締結し(以下「本件建築工事請負契約」という。),同日,A社に対し1200万円を支払った。ところが,本件建築工事の出来高が6割程度に達したところで,A社が本件破産手続開始決定を受けた。
⑴ 破産管財人Xは,A社において本件建築工事を完成させることが可能であり,それが破産財団の利益となるものと判断する場合,本件建築工事請負契約について,どのように処理するべきか,論じなさい。
⑵ 破産管財人Xは,平成30年4月20日,Cに対して本件建築工事請負契約を解除する旨の意思表示をしたが,A社による本件建築工事によって生じていた建築廃材は,その現場に放置されていた。そこで,Cは,同年5月7日,D株式会社(以下「D社」という。)との間で,①D社が本件住宅を完成させるための残工事を請負い,その請負代金として1000万円を支払うことを内容とする請負契約を締結し,それとともに,②D社が上記建築廃材の撤去を行い,その費用として100万円を支払うことを内容とする契約を締結した。そして,Cは,同月8日,合計1100万円をD社に支払った。この場合,Cは,A社の破産手続との関係で,どのように権利行使をすることができるか,論じなさい。
3.平成30年3月26日時点におけるE銀行のA社に対する貸付残高は6750万円であったが,同月27日,A社の当該債務の連帯保証人であるFは,E銀行に対して300万円を弁済し,さらに,同年4月2日,200万円を弁済した。
A社の破産手続において,Fが,破産債権額として500万円を届け出たところ,同じく破産債権の届出をしているE銀行が異議を述べ,これに対し,Fは,査定の申立てを行った。査定決定において,裁判所は,どのように判断すべきか,論じなさい。
関連条文
破産法
2条5項(第1章 総則):定義(破産債権)
53条1項(第2章 破産手続の開始 第3節 破産手続開始の効果):
双務契約(双方未履行双務契約)
54条1項(第2章 破産手続の開始 第3節 破産手続開始の効果):同上
78条2項9号(第3章 破産手続の機関 第1節 破産管財人):
破産管財人の権限(双方未履行双務契約の履行請求)
104条(第4章 破産債権 第1節 破産債権者の権利):
全部の履行をする義務を負う者が数人ある場合等の手続参加
(手続開始時現存額主義)
125条3項(第4章 破産債権 第3節 破産債権の調査及び確定) : 破産債権査定決定
148条(第5章 財団債権):財団債権となる請求権
151条(第5章 財団債権):財団債権の取扱い
民法
459条(第3編 債権 第1章 総則 第2節 債権の効力):委託を受けた保証人の求償権
499条(第3編 債権 第1章 総則 第6節 債権の消滅):弁済による代位の要件
501条(第3編 債権 第1章 総則 第6節 債権の消滅):弁済による代位の効果
502条(第3編 債権 第1章 総則 第6節 債権の消滅):一部弁済による代位
650条1項(第3編 債権 第2章 契約 第10節 委任):
受任者による費用等の償還請求等
702条1項(第3編 債権 第3章 事務管理):管理者による費用の償還請求等
一言で何の問題か
租税債権と求償権、双方未履行双務契約の履行選択、損害賠償請求権と事務管理による費用償還請求権、手続開始時現存額主義
つまづき・見落としポイント
請負人の破産について民法に特則がないことの言及
性質の異なる債権の扱いについては場合分け
答案の筋
https://note.com/fugusaka/n/n44db216dfc51
1 租税債権は性質上、私人への譲渡が認められないものであり、弁済による代位の対象にならないため、B社は財団債権ではなく、破産債権として求償権を行使することができるにすぎない。
2(1) 請負契約の目的である仕事が破産者以外の者において完成することができない性質のものであり破産管財人において履行選択をする余地がないような場合ではないため、Xは裁判所の許可を得て,本件請負契約の履行を選択し,残代金を請求できる。
2(2) 損益相殺の結果、建物完成のため余分に出費することになった200万円の損害賠償請求権について、破産債権として権利行使できる。建築廃材の撤去費用100万円については、事務管理による費用償還請求権であり、財団債権として権利行使できる。
3 Fによる200万円の弁済は、手続開始後の一部弁済であり、手続開始時現存額主義の適用を受け、求償権あるいは弁済による代位をもっての手続参加はできない。よって,裁判所は破産債権査定決定において,かかる200万円は存在しないと判断するべきである。
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