司法試験予備試験 民事訴訟法 令和2年度
問題
次の文章を読んで、後記の〔設問1〕及び〔設問2〕に答えなさい。
【事例】
X運転の普通乗用自動車が、Y運転の普通自動二輪車に追突する事故が発生した(以下「本件事故」という。)。
Xは、Yに生じた損害として、Y所有の自動二輪車の損傷について損害賠償債務が発生したことを認め、このYの物損については、XY間の合意に基づき、Xの加入する保険会社から損害額の全額が支払われた。しかし、本件事故によるYの人的損害の発生については、XY間の主張が食い違い、交渉が平行線となった。
そこで、Xは、Yに対し、本件事故に基づくYの人的損害については生じていないとして、XのYに対する本件事故による損害賠償債務が存在しないことの確認を求める訴えを提起した(以下「本訴」という。)。
Yは、この本訴請求に対し、本件事故によりYに頭痛の症状が生じ、現在も治療中であると主張して争うとともに、本件事故による治療費用としてYが多額の支出をしているので、その支出と通院に伴う慰謝料の一部のみをまずは請求すると主張し、Xに対し、本件事故による損害賠償請求の一部請求として、500万円及びこれに対する本件事故日以降の遅延損害金の支払を求める反訴を提起した。
なお、以下の各設問では、遅延損害金については検討の対象外とし、論じる必要はない。
〔設問1〕
受訴裁判所は、審理の結果、Yを治療した医師の証言等の結果から、以下のような心証を形成した。
Yには本件事故後に頭痛の症状が認められたが、既に必要な治療は終了している。そして、その頭痛の症状及び程度からすれば、本件事故前からのYの持病である慢性頭痛と考えるのが相当であるから、本件事故による損害とは認められない。その他、本件事故によるYの人的損害の発生を認めるに足りる証拠はない。そして、Yは、本件事故による物損について損害額の全額の支払を受けているから、Yの損害はすべて填補されたというべきである。
この場合に、受訴裁判所は、本訴についてどのような判決を下すべきか、判例の立場に言及しつつ、答えなさい。また、本訴についての判決の既判力は、当該判決のどのような判断について生じるか、答えなさい。
〔設問2〕
裁判所は、〔設問1〕のとおり本訴について判決するとともに、反訴(一部請求)について請求棄却の判決をして、同判決が確定した(以下「前訴判決」という。)。
しかし、前訴判決後、Yは、当初訴えていた頭痛だけでなく、手足に強いしびれが生じるようになり、介護が必要な状態となった。
そこで、Yは、前訴判決後に生じた各症状は本件事故に基づくものであり、後遺症も発生したと主張して、前訴判決後に生じた治療費用、後遺症による逸失利益等の財産的損害とともに本件事故の後遺症による精神的損害を理由に、Xに対し、本件事故による損害賠償請求の残部請求として、3000万円及びこれに対する本件事故日以降の遅延損害金の支払を求める新たな訴えを提起した(以下「後訴」という。)。
前訴判決を前提とした上で、後訴においてYの残部請求が認められるためにどのような根拠付けが可能かについて、判例の立場に言及しつつ、前訴におけるX及びYの各請求の内容に留意して、Y側の立場から論じなさい。
関連条文
民訴法
114条1項(第1編 総則 第5章 訴訟手続):既判力の範囲(主文)
142条(第2編 第一審の訴訟手続 第1章 訴え):重複する訴えの提起の禁止
246条(第2編 第一審の訴訟手続 第5章 判決):判決事項(処分権主義)
一言で何の問題か
1 債務不存在確認訴訟に対する一部請求としての反訴
2 前訴(本訴・反訴それぞれ)既判力の後訴に対する作用
つまづき・見落としポイント
本訴である不存在確認訴訟は、反訴である給付訴訟によって訴えの利益がなくなるのが原則であるが、反訴請求部分以外については本訴の訴えの利益が認められる
答案の筋
1 反訴が一部請求であり、反訴請求部分以外については、本訴の訴えの利益は認められる。このため、反訴請求部分以外の一部認容判決をし、その余は訴え却下をすべきであり、すなわち、反訴請求部分以外の不法行為に基づく損害賠償請求権の不存在と、反訴請求部分について訴えの利益がないことに既判力が及ぶ
2 被害者側として特定一部請求(not 数量的一部請求)としての残部請求であり、反訴(事故による損害賠償請求)の既判力は及ばない。
また、最終口頭弁論期日後に発生した事情に基づく請求であり、遮断効に抵触せず、債務不存在確認を求めた本訴の既判力は及ばない。
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