旧司法試験 商法 平成17年度 第1問
問題
甲、乙及び丙株式会社(いずれも会社法上の監査等委員会設置会社ではない。)が定時株主総会において普通決議の方法でした次の各決議について、会社法上どのような問題があるか論ぜよ。
1 甲社では、「本総会終結時に退任する取締役A及び監査役Bに対し当社の退職慰労金支給規程に従って退職慰労金を支給することとし、その具体的な金額、支給時期及び方法の決定は取締役会に一任する。」と決議した。
2 乙社では、1年前の定時株主総会で任期2年、月額報酬70万円として選任されていたC専務取締役について、取締役会決議によりその職務内容が非常勤取締役に変更されたため、「Cの月額報酬を7万円に変更する。」と決議した。
3 丙社では、「取締役にストック・オプションとして行使価額の総額を10億円とし、目的たる株式を普通株式合計10万株とする新株予約権を付与することとし、その具体的な発行時期及び方法の決定は取締役会に一任する。」と決議した。
関連条文
会社法
238条3項(第2編 株式会社 第3章 新株予約権 第2節 新株予約権の発行):
募集事項の決定
239条1項(第2編 株式会社 第3章 新株予約権 第2節 新株予約権の発行):
募集事項の決定の委任
240条(第2編 株式会社 第3章 新株予約権 第2節 新株予約権の発行):
公開会社における募集事項の決定の特則
309条2項(第2編 株式会社 第4章 機関 第1節 株主総会及び種類株主総会等):
株主総会の決議
361条1項(第2編 株式会社 第4章 機関 第4節 取締役):取締役の報酬等
387条1項(第2編 株式会社 第4章 機関 第7節 監査役):監査役の報酬等
一言で何の問題か
役員の報酬に関する株主総会決議、取締役会への一任
つまづき、見落としポイント
取締役と監査役の区分、公開会社における募集事項の決定の特則(240Ⅰ)
答案の筋
1 金額を合理的に算出できる一定の基準が存在し、株主がかかる基準を知りうる状況にあれば、監査役の独立性の観点からも問題なく、退職慰労金の支給について、株主総会決議により取締役会に一任することも許される。
2 役職の変更により報酬が変更される慣行を、当該取締役が了知していた場合には、報酬変更について黙示の同意があったとみなすことができ、会社による報酬額の事後的な一方的変更が認められ、当該決議は有効となる。
3 新株予約権は、発行時期等による決議時点での公正価額の算定が困難であり、「額が確定していない」報酬等に当たるところ、具体的な「算定方法」が定められているとは言えず、本件決議は違法である。さらに、新株予約権の発行が「特に有利な」条件等によるものに当たる場合、特別決議を経ておらず違法となる。
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