旧司法試験 刑法 平成10年度 第2問
問題
甲は、⼄にAの殺害を依頼し、⼄はこれを引き受けた。甲は、犯⾏準備のための資⾦として⼄に現⾦100万円を⼿渡し、A殺害後には報酬としてさらに200万円を⽀払うことを約束した。その後、⼄は、その妻丙から「甲なんかのために、危ない橋を渡ることはない。」と説得され、殺害を思いとどまり、丙と⼆⼈でその100万円を費消した。そのころ、Aは既に重病にかかっており、しばらくして病死したが、⼄はこれに乗じて、甲に対し⾃分が殺害したように申し向けて約束の報酬を要求し、現⾦200万円を受け取った。その夜、⼄は、丙にこれを⾃慢話として語り、同⼥にそのうちの100万円を与えた。
⼄及び丙の罪責を論ぜよ。
関連条文
刑法
45条(第1編 総則 第9章 併合罪):併合罪
60条(第1編 総則 第11章 共犯):共同正犯
65条(第1編 総則 第11章 共犯):身分犯の共犯
246条(第2編 罪 第37章 詐欺及び恐喝の罪):詐欺
252条(第2編 罪 第38章 横領の罪):横領
256条(第2編 罪 第39章 盗品等に関する罪):盗品譲受け等
257条(第2編 罪 第39章 盗品等に関する罪):親族等の間の犯罪に関する特例
民法
708条(第3編 債権 第4章 不当利得):不法原因給付
一言で何の問題か
不法原因給付と財産罪、親族相盗例
つまづき、見落としポイント
盗品等無償譲受罪と、その親族相盗例の範囲
答案の筋
不法原因給付物であっても、委託の趣旨に背いて、権限がないのに所有者でなければできない費消行為を行うことは、財産法秩序を乱す⾏為であり、乙に横領罪が成立する。また、⾮⾝分者も⾝分者と共同することによって、⾝分犯の法益を侵害することが可能であるため、丙も共同正犯となる。
殺害の報酬という不法原因給付物であっても、被欺罔者甲は欺かれなければ200万円を交付しなかったのであり、欺罔者⼄の⾏為は甲の適法な財産状態を乱すものであり、⼄に詐欺罪が成⽴する。
盗品犯人が親族である本犯者を庇護することは社会的によくみられるものであり、適法⾏為の期待可能性が乏しいため、丙に盗品等無償譲受罪は成立するも、親族相盗例として刑が必要的に免除される。
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