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司法試験 倒産法 平成30年度 第2問


問題

次の事例について,以下の設問に答えなさい。
【事 例】
食品製造業を営むA株式会社(以下「A社」という。)は,味に定評のある老舗であり,自らが所有する甲食品工場で弁当等を生産し,特に定番の総菜商品は有名デパートを含む得意先各社から受注を得ていた。しかし,A社は,平成30年正月に向けて発売した期待の新商品が不人気に終わり,不良在庫を抱えて資金繰りが悪化した。折悪しく大口の売掛先から受け取っていた同年3月末日を満期とする手形が不渡りとなったことから,A社は資金繰りに窮して破綻が決定的となり,A社代表取締役社長B(以下「B社長」という。)は,C弁護士に民事再生手続による事業再生を依頼した。
A社は,自ら振り出した同年4月25日を満期とする手形を決済できないことが確実になったことから,同月20日,C弁護士が申立代理人となって再生手続開始の申立てをし,必要な手続費用を予納した。同日,この申立てが受理されて,裁判所は監督委員としてD弁護士を選任した。
A社には,税金の滞納や労働債権の未払は生じていない。B社長は,従来どおり甲食品工場を生産拠点として事業を継続し,得られる収益によって再生債権を弁済する内容の再生計画案を想定している。
C弁護士は,同月21日にA社の主要債権者である以下の3者に連絡したところ,以下のとおりのコメントを得たので,その旨を裁判所に報告した。
<コメント①:E銀行>
E銀行は,A社の総債権者の中で唯一の担保権者であり,甲食品工場に抵当権を有している。
A社の再生手続開始の申立時に判明している全ての債権者が再生債権者としてその権利を行使することが見込まれる額の総額(以下「総権利行使見込額」という。)に対して,E銀行が再生債権者としてその権利を行使することが見込まれる額が占める割合は30%である。
E銀行のコメントは,「突然の申立てに困惑して行内の考えもまとまっておらず,現時点で手続に賛成とは到底申し上げられない。担保権の行使についてはこれから検討する。」とのことであった。
<コメント②:F株式会社(以下「F社」という。)>
F社は,A社の最大の仕入先である。総権利行使見込額に対して,F社が再生債権者としてその権利を行使することが見込まれる額が占める割合は15%である。
F社のコメントは,「どうせ再建はできないと思うので,協力することは考えていない。」とのことであった。
<コメント③:G株式会社(以下「G社」という。)>
G社は,F社に次ぐA社の仕入先である。総権利行使見込額に対して,G社が再生債権者としてその権利を行使することが見込まれる額が占める割合は10%である。
G社のコメントは,「定番の総菜を中心にすれば,A社の業績回復も不可能ではないと思う。
自社の債権については,再生債権として再生計画に基づく弁済を受けることは仕方がないが,再生手続開始の申立て後も取引を継続して新たに食材をA社に卸した場合,その代金までも回収することができないとすれば被害が拡大してしまうので,不安である。」とのことであった。
〔設問1〕
⑴ 裁判所が再生手続開始の決定をすることができるかどうかについて,E銀行,F社及びG社のコメントを踏まえ,理由を付した上で論じなさい。
⑵ A社は,G社に食材の取引を継続してもらえるようにするため,どのような方策を採ることが考えられるか。
【事 例(続き)】
裁判所は,平成30年4月30日,再生手続開始の決定をした。当該決定がされた後に,監督委員D宛てにB社長の不正を知らせる匿名の通知があり,これを契機として以下の事実が判明した。
<判明した事実①>
A社の仕入先であるH株式会社(以下「H社」という。)は,同年3月末日現在,A社に対し食材等に係る売掛債権を有していた。A社の手形不渡りが確実であることを知ったH社は,同年4月19日,A社と協議し,再生手続開始の申立て後もA社との取引を継続することを約束する一方,A社は,在庫として保有する食材をH社に代物弁済した。
<判明した事実②>
A社は,長年にわたりF社から食材を仕入れてきた。平成25年頃,F社はA社に対して代金の割引を申し出た。しかし,B社長は,これを断り,F社に対し,仕入価額はそのまま据え置きつつ,F社が申し出た割引額に相当する額をバックマージンとしてB社長の妻への顧問料の名目で支払うように求め,再生手続開始の申立ての直前まで,B社長の妻名義の預金口座に毎月送金させていた。B社長の妻がF社の顧問となっている実態はなく,B社長が当該預金口座を実質的に管理しており,当該預金口座に送金された金銭は,B社長の個人的な遊興費に充てられていた。
〔設問2〕
⑴ <判明した事実①>について,A社が行った代物弁済につき,監督委員Dが訴え又は否認の請求によって否認権を行使してH社に価額の償還を求めるためには,A社は,どのような手続を採る必要があるか。また,そのような手続を採ることが必要とされる理由についても,管財人が選任されている場合と対比しつつ論じなさい。
⑵ <判明した事実②>について,A社は,B社長に対して,F社からB社長の妻名義の預金口座に送金された金額に相当する額の支払を求めることとしたが,B社長は,C弁護士の説得にもかかわらず,これを任意に支払おうとはしなかった。この事情を知ったG社は,「A社の主張どおり,B社長はA社に当該額を支払うべきだが,このままではB社長がこれを支払わずに
費消してしまうおそれがある。C弁護士の説得を待っていてはらちが明かない。」と考えた。
この場合に,G社は,A社の再生手続において,どのような方策を採ることが考えられるか。

関連条文

破産法
15条1項(第2章 破産手続の開始 1節 破産手続開始の申立て):
 破産手続開始の原因
16条1項(第2章 破産手続の開始 1節 破産手続開始の申立て):
 法人の破産手続開始の原因
民事再生法
21条1項(第2章 再生手続の開始 1節 再生手続開始の申立て):
 再生手続開始の申立て
25条(第2章 再生手続の開始 1節 再生手続開始の申立て):
 再生手続開始の条件
33条(第2章 再生手続の開始 2節 再生手続開始の決定):
 再生手続開始の決定
38条(第2章 再生手続の開始 2節 再生手続開始の決定):
 再生債務者の地位
53条(第2章 再生手続の開始 2節 再生手続開始の決定):別除権
54条1項(第3章 再生手続の機関 1節 監督員):監督命令
56条1-2項(第3章 再生手続の機関 1節 監督員):否認に関する権限の付与
64条1項(第3章 再生手続の機関 3節 管財人):管理命令
66条(第2章 再生手続の開始 2節 再生手続開始の申立て):管財人の権限
84条(第4章 再生債権 1節 再生債権者の権利):再生債権となる請求権
85条(第4章 再生債権 1節 再生債権者の権利):再生債権の弁済の禁止
120条(第5章 共益債権、一般優先債権及び開始後債権):開始前の借入金等
135条1項(第6章 再生債務者の財産の調査及び確保 2節 否認権):
 否認権の行使
142条1-3項(第6章 再生債務者の財産の調査及び確保 3節 法人の役員の責任の請求):法人の役員の財産に対する保全処分
143条1-2項(第6章 再生債務者の財産の調査及び確保 3節 法人の役員の責任の請求):損害賠償請求権の査定の申立て等
172条の3第1項(第7章 再生計画 3節 再生計画案の決議):
 再生計画案の可決の要件
174条2項(第7章 再生計画 4節 再生計画の認可等):
 再生計画の認可又は不認可の決定
会社法
423条1項(2編 株式会社 4章 機関 11節 役員等の損害賠償責任):
 役員等の株式会社に対する損害賠償責任

一言で何の問題か

1(1) 再生手続開始決定の要件,申立棄却事由
1(2) 個別弁済の禁止、共益債権化
2(1) 管財人と監督委員の否認権
2(2) 役員の責任に基づく損害賠償請求権の査定の裁判の申立て、役員の財産に対する保全処分の申し立て、管理命令の申し立て

つまづき・見落としポイント

条文の要件について、区分した上で、事実を出して(評価して)当てはめる。

答案の筋

概説

https://note.com/fugusaka/n/n9d2026a9e69b?sub_rt=share_pw

1(1) 再生手続開始決定要件である,①再生手続開始申立てが手続開始原因の具備,②25条各号に列挙された申立棄却事由の非該当を満たすことから、裁判所は再生手続開始の決定をできる。
1(2) 再生手続申立て後開始決定前に取得した代金債権は,再生債権として扱われ個別弁済が禁止されるところ、事業継続のために不可欠な仕入れとして「事業の継続に欠くことができない行為……によって生ずべき」請求権に当たるため,裁判所の許可又は監督委員の承諾を経て共益債権とすることができる。
2(1) 管財人は当然に否認権を行使できる一方,監督委員には当然には否認権行使権限は認められないため、監督委員に特定の行為ごとに否認権行使権限付与の申立てを行い,その範囲内での管理処分権を認める。
2(2) 管理命令が出されていない本件においては申立権者として,役員の責任に基づく損害賠償請求権の査定の裁判、また、役員の財産に対する保全処分を申し立てることが考えられる。さらに、管理命令を出すよう申し立てることが考えられる。

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