旧司法試験 民法 昭和49年度 第1問
問題
甲は、乙に対し、その所有するA地を、石材置場に使用する目的で10年間賃貸したが、賃借権設定登記はなかった。乙は、その土地の2分の1を石材置場に使用していたが、間もなく、残り2分の1を建物所有のために丙に転貸した。丙は、乙が甲から転貸の承諾を得ていないことを知りながら、その土地で建物の建築に着手した。このような状況の下で、甲からA地の所有権を譲り受け移転登記を経由した丙は、乙に対し、その使用部分の明渡しを請求した。丙の請求は認めるべきであるか。この請求が、所有権を根拠とする場合と、無断転貸による解除を根拠とする場合とに分け、丙の立場で考えられる主張と、乙の立場で考えられるこれに対する反論とを挙げて、論ぜよ。
関連条文
民法
1条2項(第1編 総則 第1章 通則):基本原則(信義則)
1条3項(第1編 総則 第1章 通則):基本原則(権利濫用)
177条(第2編 物権 第1章 総則):不動産に関する物権の変動の対抗要件
605条(第3編 債権 第2章 契約 第7節 賃貸借):不動産賃貸借の対抗力
612条(第3編 債権 第2章 契約 第7節 賃貸借):賃借権の譲渡及び転貸の制限
一言で何の問題か
無断転貸における背信的悪意者
答案の筋
1 転借人丙は、いつぞ無断転貸を理由に契約解除されかねない転貸部分の権利を自ら取得したにすぎず、背信的悪意者にあたらず「第三者」にあたるため、所有権に基づき、転貸人乙に対する明渡請求が認められる。
2 丙は、乙の自己に対する転貸が無断転貸であるという事実を知りながら、これにより利益を受けていた。それにもかかわらず、かかる事情を殊更に利用して解除権を行使し、一層の利益としてA地を取得しようとしている。よって、権利濫用にあたり、明渡請求は認められない。
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