司法試験予備試験 行政法 平成24年
問 題
Aは、甲県乙市に本店を置く建設会社であり、乙市下水道条例(以下「本件条例」という。)及び乙市下水道排水設備指定工事店に関する規則(以下「本件規則」という。)に基づき、乙市長(B)から指定工事店として指定を受けていた。Aの従業員であるCは、2010年5月に、自宅の下水道について、浄化槽を用いていたのをやめて、乙市の公共下水道に接続することにした。Cは、自力で工事を行う技術を身に付けていたため、休日である同年8月29日に、乙市に知らせることなく、自宅からの本管を付近の公共下水道に接続する工事(以下「本件工事」という。)を施工した。なお、Cは、Aにおいて専ら工事の施工に従事しており、Aの役員ではなかった。
2011年5月になって、本件工事が施工されたことが、乙市の知るところとなり、同年6月29日、乙市の職員がAに電話して、本件工事について経緯を説明するよう求めた。同日、Aの代表者が、Cを伴って乙市役所を訪れ、本件工事はCが会社を通さずに行ったものであるなどと説明したが、同年7月1日、Bは、本件規則第11条に基づき、Aに対する指定工事店
としての指定を取り消す旨の処分(以下「本件処分」という。)をした。本件処分の通知書には、その理由として、「Aが、本市市長の確認を受けずに、下水道接続工事を行ったため。」と記載されていた。なお、Aは、本件処分に先立って、上記の事情説明以外には、意見陳述や資料提出の機会を与えられなかった。
Aは、本件処分以前には、本件条例及び本件規則に基づく処分を受けたことはなかったため、本件処分に驚き、弁護士Jに相談の上、Jに本件処分の取消訴訟の提起を依頼することにした。
Aから依頼を受けたJの立場に立って、以下の設問に解答しなさい。
なお、乙市は、1996年に乙市行政手続条例を施行しており、本件処分に関する手続について、同条例は行政手続法と同じ内容の規定を設けている。また、本件条例及び本件規則の抜粋を資料として掲げてあるので、適宜参照しなさい。
〔設 問〕
Aが本件処分の取消訴訟において主張すべき本件処分の違法事由につき、本件条例及び本件規則の規定内容を踏まえて、具体的に説明しなさい。なお、訴訟要件については検討しなくてよい。
【資料】
○ 乙市下水道条例(抜粋)
(排水設備の計画の確認)
第9条 排水設備の新設等を行おうとする者は、その計画が排水設備の設置及び構造に関する法令及びこの条例の規定に適合するものであることについて、あらかじめ市長の確認を受けなければならない。確認を受けた事項を変更しようとするときも、同様とする。
(排水設備の工事の実施)
第11条 排水設備の新設等の設計及び工事は、市長が排水設備の工事に関し技能を有する者として指定した者(以下「指定工事店」という。)でなければ行うことができない。ただし、市において工事を実施するときは、この限りでない。
2 指定工事店について必要な事項は、規則で定める。
(罰則)
第40条 市長は、次の各号の一に該当する者に対し、5万円以下の過料を科することができる。
(1) 第9条の規定による確認を受けないで排水設備の新設等を行った者
(2) 第11条第1項の規定に違反して排水設備の新設等の工事を実施した者 (3)~(8)
(略)
○ 乙市下水道排水設備指定工事店に関する規則(抜粋)
(趣旨)
第1条 この規則は、乙市下水道条例(以下「条例」という。)第11条第2項の規定により、乙市下水道排水設備指定工事店に関して必要な事項を定めるものとする。
(指定工事店の指定)
第3条 条例第11条に規定する排水設備工事を施工することができる者は、次の各号に掲げる要件に適合している工事業者とし、市長はこれを指定工事店として指定するものとする。
(以下略)
2 (略)
(指定工事店の責務及び遵守事項)
第7条 指定工事店は、下水道に関する法令(条例及び規則を含む。)その他市長が定めるところに従い、誠実に排水設備工事を施工しなければならない。
2 指定工事店は、次の各号に掲げる事項を遵守しなければならない。
(1)~(5) (略)
(6) 工事は、条例第9条に規定する排水設備工事の計画に係る市長の確認を受けたものでなければ着手してはならない。
(7)~(12) (略)
(指定の取消し又は停止)
第11条 市長は、指定工事店が条例又はこの規則の規定に違反したときは、その指定を取り消し、又は6月を超えない範囲内において指定の効力を停止することができる。
関連条文
行政手続法
1条1項(1章 総則):目的等
2条4号(1章 総則):定義(不利益処分)
3条3項(1章 総則):適用除外
11条2項(2章 申請に対する処分):複数の行政庁が関与する処分
12条(3章 不利益処分 1節 通則):処分の基準(公、具体的)
13条1項1号(3章 不利益処分 1節 通則) : 不利益処分をしようとする場合の手続
14条1項(3章 不利益処分 1節 通則):不利益処分の理由の提示
15条1項(3章 不利益処分 2節 聴聞):聴聞の通知の方式
20条2項(3章 不利益処分 2節 聴聞):聴聞の期日における審理の方式
行政事件訴訟法
30条(2章 抗告訴訟 1節 取消訴訟):裁量処分の取消し
一言で何の問題か
処分の実体的・手続き的違法事由
つまづき・見落としポイント
実体的違法と手続的違法を混在しない(どちらも適用違憲的?)
不利益処分であれば、どのような手続(聴聞?弁明?)が必要かを検討する
答案の筋
概説
https://note.com/fugusaka/n/n5f8e7cb33c47
実体的違法事由としては、事実誤認に基いて要件に該当しないにもかかわらずなされたものであり、また、比例原則に反して裁量権を逸脱・濫用しており違法である。
手続き的違法事由としては、聴聞手続という処分の正当性を担保するための重要な手続を欠いており、また、理由提示が不十分であり違法である。
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