司法試験 倒産法 平成23年度 第1問
問題
次の事例について,以下の設問に答えなさい。
【事 例】
A株式会社(以下「A社」という。)は,B株式会社(以下「B社」という。)との間で,平成21年4月1日,甲土地を,期間を30年として賃貸するとの土地賃貸借契約(以下「本件賃貸借契約」という。)を締結し,B社は,賃借後に甲土地上に乙建物を建てて使用していた。
本件賃貸借契約においては,
① 賃料は,月額100万円とし,毎月末日限り翌月分を前払とする。
② 賃借人が賃料の支払を3か月分以上怠ったときは,賃貸人は,賃借人に対し7日以上の期間を定めて催告の上,本件賃貸借契約を解除することができる。
との約定があった。
その後,B社は,経営状態が悪化したことから,平成23年3月16日に破産手続開始を申し立て,同日,破産手続開始決定がされ,Xが破産管財人に選任された。
〔設 問〕
以下の1及び2については,それぞれ独立したものとして解答しなさい。
1.上記事例において,B社が平成23年1月分から同年3月分まで3か月分の賃料の支払をしなかったため,A社は,B社に対し,平成23年3月3日にB社に到達した内容証明郵便により10日以内に賃料を支払うよう催告したが,B社からの賃料の支払はなかった。そこで,A社は,同月17日,Xに対して本件賃貸借契約を解除する旨の意思表示をした。これに対して,
Xは,「自分は,第三者的立場にあるので,A社の解除権の対抗を受けることはない。」と主張した。
このA社による解除が認められるかについて,Xの主張に対するA社の反論も含めて,論じなさい。
2.上記事例において,B社は,平成21年7月1日に,C株式会社(以下「C社」という。)から2億円を借り入れるのと同時に,乙建物について,C社のために前記2億円の貸金債権を被担保債権とする抵当権を設定し,その設定の登記がされた。
そして,B社は,A社に対して賃料を約定どおり支払い続け,賃料不払等の債務不履行はない状態で,破産手続開始決定に至った。
破産手続開始後において,C社は,Xに対し,賃料の支払を継続しつつ,乙建物を売却して2億円の貸付金の一部を返済するよう求めた。乙建物及び甲土地についての借地権の時価は,合計約1億円程度であり,Xとしても,時価が被担保債権額を大きく下回る状況であり,破産財団にとって月々の賃料負担が生ずる乙建物をできるだけ早く処理したいと考えたが,借地権付建物であることもあり,売却まで相当時間が掛かりそうであった。
⑴ この状況で,Xが,破産法第53条に基づき本件賃貸借契約を解除することの当否について論じなさい。
⑵ Xは,本件賃貸借契約を解除せず,乙建物の買受希望者を募ったところ,破産手続開始後6か月を経過したところで,ようやくD株式会社(以下「D社」という。)が,乙建物及び甲土地についての借地権を合計1億円で買い受けたいとの意向を表明し,A社も,D社に対してであれば,賃借権の譲渡を認めてもよいと回答した。そこで,Xは,C社に対し,乙建物及び甲土地についての借地権を1億円で売却したいが,破産財団から支払った賃料合計600万円を売却代金から差し引いた額をC社に支払うことで,抵当権の設定の登記の抹消に応じてもらいたい旨を申し入れた。これに対して,C社は,賃料合計600万円を差し引くことは受け入れ難いと反発し,交渉は成立しなかった。
この場合にXが採ることができる法的手段について論じなさい。また,それに対してC社が採ることができる対抗手段について述べなさい。
関連条文
破産法
53条1項(第2章 破産手続の開始 第3節 破産手続開始の効果):
双務契約(双方未履行双務契約)
65条1項(第2章 破産手続の開始 第3節 破産手続開始の効果):別除権
78条1項、2項14号(第3章 破産手続の機関 第1節 破産管財人):
破産管財人の権限
85条1項(第3章 破産手続の機関 第1節 破産管財人): 破産管財人の注意義務
184条2項(第7章 破産財団の換価 第1節 通則): 換価の方法 (別除権の目的)
186条(第7章 破産財団の換価 第2節 担保権の消滅):
担保権消滅の許可の申立て
187条(第7章 破産財団の換価 第2節 担保権の消滅):
担保権の実行の申立て
188条1項・3項・6項(第7章 破産財団の換価 第2節 担保権の消滅):
買受けの申出
民法
87条2項(第1編 総則 第4章 物):主物及び従物
370条(第2編 物権 第10章 抵当権 第1節 総則):抵当権の効力の及ぶ範囲
545条1項(第3編 債権 第2章 契約 第1節 総則):解除の効果
一言で何の問題か
破産管財人の第三者性, 双方未履行双務契約解除の制限, 担保権消滅許可制度
つまづき・見落としポイント
設問全て主張すべき立場がなく、説得的な論述が取れる方を採用すれば良い
破産管財人が第三者に当たると紋切型の論証で終わらせない
結論の座りが悪い場合、信義則のような善管注意義務に流れる思考を養う
答案の筋
概説(音声解説)
https://note.com/fugusaka/n/n65b84842f474
1 破産管財人が差押債権者類似の地位にあり、「第三者」に当たると思われるも、当事者の包括的承継人的地位にあたり、また2つの約定からも賃借人に不利なものとは言えず「第三者」に該当しないため、A社による契約解除は認められる。
※破産管財人が第三者に当たるのか、それとも債権者が主張するように包括的承継人的地位に当たるのかは、債権者が破産開始決定時に解除権を有していたかどうかにより決する
2(1) 双方未履行双務契約において、破産債権者を著しく害する場合は解除不可となるところ、解除により借地権が消滅すると抵当権の把握する価値が大幅に低下すると考えられるため、53条に基づく解除はできない。
2(2) 時価や組入金を考慮しても、別除権の行使や換価処分以上に回収が見込める担保権消滅許可の申立てをすることが考えられる。一方、C社は売得金及び組入金の額について折り合いがつかないため、担保権実行の申立て又は買受け申出により対抗することが考えられる。
ここから先は
¥ 1,000
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?